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直径10万光年の「巨大太陽系」について

私たちの暮らしているこの地球は太陽系に属しています。
しかしこの太陽系は、我々が現在の宇宙物理学でいうところの太陽系とはかなり異なった形体をしていることはここのブログで何度も述べてきました。

もう一度その概略を整理してみましょう。

その大前提と考えなくてはならないことは、私たち人類が認識しているこの地球は、囲われた(シールドされた)時空間に存在する太陽系に属する地球という惑星に住む存在としての人類なのです。そして、そのシールドされた太陽系の大きさが、我々の宇宙論では直径10万光年の天の川銀河系という大きさに対応しています。だから、この銀河系と称している場の中には太陽系以外のものは何も存在しません。

太陽系2
上図左は冥王星の軌道までを表した惑星配置図です。上右図はカイパーベルト帯(最も奥にある暗い球体の中心の白い点)を含めた巨大球体でシールドされた空間配置図です。そして、この暗黒球体の大きさが直径10万光年の太陽系の大きさとなります(想像図)。

私たちはたとえ閉じ込められているとしても、その外には私たちの太陽系(天の川銀河)を含む銀河系があり、その銀河星雲を包括する銀河団があり、またその銀河団を構造体とする大規模構造の宇宙があります。

そしてそれをオーム宇宙ということにします。また、この「存在」の中にはこのオーム宇宙のような宇宙が数限りなくあります。

私たち人間は何らかの理由でその中に閉じ込められ、その中である一定の水準に達するまで地球という惑星の中で学びを求められている存在でもあります。リザムの等式やリザムの宇宙で述べていますように、地球という惑星は太陽系も含めて私たちが想像するよりもかなり特殊な存在です。

以上のように、この無限とも思える「オーム宇宙」の中には私たちと同じような学びをする惑星が私たちを含めて9個あります(今の地球は2回目の学びの時で。全体では10回目の学びの惑星です)。

さて、ここで我々「人類に課せられた難問」となるのですが、それはこの宇宙で物質体であるという存在はこの9個の惑星だけなのです。さっきも述べましたように、この太陽系に課せられた諸惑星は想像を絶するような「特殊な存在」なのです。

私たちが夜空の星を眺めて、あるいは天文学者なら望遠鏡で太陽系外の星を観測して、それを地球にある物質と同じ元素記号(H,C,N,O・・・)で出来た「物」だと信じ、しかも本当であるように思い込むことで科学を発展させて来ましたが、それは間違いの科学認識で創造されたものです。

この宇宙で私たちが「物質」と認識している「物」と、ほとんど同じ状態(物質)で存在する星(惑星)は、9個しかないのです(つまりほとんどゼロに近いのです)。

それでは、あの夜空に見える星々は一体何なのでしょうか。

このことを解明するためには、まずは「物質」についての認識を深める必要が有りそうです。そして、この物質について追及することは、時空構造(時間と空間の認識)や次元についても知る必要が出てきます。

ここのブログでは、物質が存在するための空間三次元と時間としての一次元についてリザムの宇宙図で詳しく説明してきました。ただ、この宇宙図だけで空間認識をするためには、それだけでも一般常識と違いすぎているために、大変な苦労をする必要があります。

実軸領域拡大図
上の右図では赤と青の球体部分が直径10万光年の太陽系に相当します。しかし現代天文学で観測している物質としての宇宙は青い球体の部分だけということになります。当然赤い球体は鏡に映った宇宙のような存在です。

また、上の左図から推測できますように青色領域が上右図ですから、黄色領域は我々の銀河系(太陽系)とは異なる兄弟の銀河系(例えばアンドロメダ銀河)として認識できるのかもしれません。

しかし、今回の記事は、この「3+1」次元の時空構造とは異なった、精神世界でいうところの高次元波動を認識するしか方法が無いようです。しかもこの高次元波動にはフラクタル次元、例えば3.2次元・1.4π次元・√5次元・・・といったような、整数次元では表せない次元構造を想定する必要性があります。

まずは最低限の「物質」の説明をしておきます。そしてそれから高次元波動(ここでは地球霊界の構造)の説明に入りたいと思っています。

次回は、地球霊界の構造も含めた「物質」について述べる予定です。
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「レベル4マルチバース」

 レベル1から3までのマルチバースでは、初期条件や物理定数はそれぞれ異なりうるものの、自然を支配する基本法則は同じである。しかし、そこで打ち止めにする必要があるだろうか。

 自然法則そのものが違う宇宙があってもよいのではないか。量子効果が存在せず、古典物理学の法則に従う宇宙などというのはどうだろう。時間が連続したものではなく、コンピューターのクロック信号のように離散的なステップを踏んでやってくる宇宙なんていかがだろうか。何もない空っぽの12面体の宇宙というのもありかもしれない。レベル4マルチバースでは、これらすべてが実在する。このてのマルチバースの存在が予想されるのは、抽象的な理論の世界と観測された実世界との間に厳密な対応関係があるためである。

 私たちの世界は数式、より一般的には数やベクトル、幾何学図形といった数理的構造によって非常な迫真性をもって記述できる。物理学者のウィグナーが1959年に行った有名な講義の中で、「自然科学において数学が桁外れの実用性を発揮しているのは、ある種の神秘といえる」と語った。裏返していえば、数理的構造が得体の知れない現実感を伴っているということである。

 数理的構造は客観的な存在であり、誰が研究しても同じ結論になるという客観的存在としての条件を満たしている。証明ずみの定理は、それを証明したのが人間であれコンピューターであれ、あるいはお利口なイルカであっても、真実である。思慮深い宇宙人がいるなら、彼らも私たちと同様に同じ数理的構造を見いだすに違いない。数学者たちがふつう数理的構造を「創造した」とはいわず、「発見した」と表現するのもこのためである。

 数学と物理学との対応関係をどう理解するかについては、2つのパラダイムがある。いずれももっともだが、まったく相反する見方で、おそらくプラトンとアリストテレスの時代から意見が分かれてきたであろう。

 アリストテレス哲学の見方によれば、根本は物理的実体であって、数学的表現は単なる便利な近似にすぎない。一方のプラトン哲学によると、数理的構造こそが真の実体であり、観測者はそれを不完全な形でしか認識できない。これらは、どちらの視点がより基本的なのか、観測者という“蛙の視点”と物理法則という“鳥の視点”のどちらを基本的と見るかの違いである。アリストテレスは蛙の視点を、プラトンは鳥の視点を重視する。

 私たちはみな、数学について何も知らない子どものころに、アリストテレス的な見方に慣らされている。プラトン的な見方は後に身につくものである。しかし、現代の物理学者たちはプラトン的見方に傾いている。数学によって宇宙をこれほどうまく記述できるのは、宇宙そのものが本来、数理的であると考えられるためである。

 とすると、あらゆる物理現象は詰まるところ数学の問題だということになる。無限の知力と力量を持つ数学者がいたなら、原理的には“蛙の視点”を計算できるだろう。その宇宙が内に含んでいる自意識を持つ観測者とは何なのか、その観測者が何を認識しているのか、彼らが認識内容を他者に伝えるためにどんな言語を考案するか、といった事柄までも計算できるだろう。

 数理的構造は不変の抽象的実在であり、空間や時間に縛られない。もし歴史が映画のようなものなら、その構造は映画のワンシーンではなく、一巻のビデオテープに相当する。

 ここで、3次元空間の中を動き回る点のような粒子でできあがっている宇宙を考えてみよう。4次元時空の中では(鳥の視点に立てば)、これらの粒了の軌跡はもつれたスパゲティのように見える。蛙からは粒子が等速運動して見える場合、鳥の視点からはゆでる前のスパゲティのような1本の真っ直ぐな軌道が見える。蛙からは2個の粒子が対になって回転して見える場合、鳥に見えるのは二重らせんのようにもつれ合う2本のスパゲティとして見える。

 蛙にとっては、世界はニュートンの運動方程式と万有引力の法則によって記述される。しかし、鳥にとっては、スパゲティの幾何学的配置、つまり1つの数理的構造が世界の記述となる。蛙そのものもゴチャゴチャした一塊のパスタにすぎず、その非常に複雑な絡み合いが情報を蓄積・処理する生体としての粒子集団を表している。私たちの宇宙はこの例よりもはるかに複雑で、どのような数理的構造が対応しているのかはまだわかっていない。

 さて、プラトン的パラダイムに立つと、「宇宙が現在のような宇宙になったのはなぜか」という疑問が持ち上がる。アリストテレス学派にとっては、これは意味のない問いである。宇宙は現に存在するものでしかない。しかし、プラトン学派の立場からは、宇宙がいまとは違う宇宙にならなかったのはなぜかと問わずにはいられない。宇宙が数理的なものなら、多くの数理的構造からどうして特定の1つだけが選ばれ、宇宙を記述するようになったのかは、実存の最も本質的なところに、基本的な非対称性が組み込まれているように思えてしまう。

 この難問を回避するため、数理的な対称性は完全に保たれ、あらゆる数理的構造が物理的にも存在するものと考える。それぞれの数理的構造が宇宙に対応し、全体としてマルチバースを形作る。このマルチバースを構成する個々の要素は同じ空間には存在せず、空間と時間を超えた存在となる。おそらく、内部に観測者を含まない宇宙が大半であろう。

 この仮説はプラトン的な考え方を究極にまで突き詰めたものといえる。プラトンのイデアの世界にある数理的構造、あるいは数学者ラッカーのいう「マインドスケープ」が物理的にも存在するというわけである。

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図:数理的構造そのものが宇宙「レベル4マルチバース」
究極の並行宇宙はあらゆる可能性を含む。その位置や宇宙論的な特性、量子状態が異なるだけでなく、物理法則までが異なる宇宙の存在が考えられる。これらの宇宙は空間と時間を超えたところにあるので、目に見えるように描くのはまず不可能である。最良の方法は、抽象的に思い描くこと。宇宙とは、それを支配する物理法則の数理的構造を表現した「彫刻」のようなものといえる。例えば、1つの単純な宇宙を考えよう。地球と月、太陽があり、ニュートン力学に従っているとする。客観的立場の観測者からは、この宇宙は組み紐で覆われた丸い輪のように見える(丸い輪は地球の軌跡、それを覆う組み紐は地球を周回する月の軌跡)。物理法則が異なれば、宇宙の形も異なってくる(a~d)。この考え方に立つと、物理学の根本にかかわるさまざまな問題が解決する。

 マルチバースの階層構造はレベル4でおしまいになる。基礎的な物理理論が自己矛盾のないものならば、これらはいずれも何らかの数理的構造によって表現可能だからである。

 レベル4マルチバースの仮説は実証可能であり、レベル2マルチバースの場合と同様、レベル4マルチバースは1つの集合(この場合は数理的構造の全体)と選択効果を含んでいる。数理的構造の分類が進むにつれ、私たちの世界を記述している数理的構造が観測結果と一致する最も一般的な構造であることが判明するだろう。同様に、私たちが将来に観測する事柄は過去の観測事実と首尾一貫した一般的なものになるはずで、過去の観測事実は私たちの存在と矛盾しない最も一般的なものである。

 「一般的」が何を意味するかを定量的に示すのは難しい問題で、その研究は緒についたばかりである。しかし、数理的構造には1つの顕著で有望な特徴がある。私たちの宇宙が明快で秩序を持っているのは数理的構造の対称性と不変性のおかげであるが、これらは例外なく一般的だという点である。数理的構造にはもともとこうした特徴が備わっているようで、この特徴を取り除くには複雑な公理を付け加える必要がある。


 ここまで紹介してきたように並行宇宙には4つの階層があり、レベル1からレベル4へと向かうにつれて私たちの宇宙とはかけ離れたものになる。レベル1では宇宙の初期条件が異なるだけだが、レベル2では物理定数や粒子にも差が生じ、レベル4に至っては物理法則そのものが異なる余地がある。私たちの宇宙と質的に変わりがないのはレベル3だけで、過去数十年にわたってレベル3宇宙の考え方が反論の嵐に見舞われてきたのは皮肉なことである。

 今後数年で、宇宙マイクロ波背景放射や大規模スケールでの物質分布など宇宙論に関連する観測が劇的に進むとみられ、空間の曲率と位相幾何学的性質がもっと正確に突き止められることにより、レベル1宇宙の仮説に白黒がつくだろう。こうした観測を通じてカオス的永久インフレーション理論を検証することにより、レベル2宇宙を調べることもできるだろう。宇宙物理学と高エネルギー物理学の双方が進歩すれば、物理定数がどの程度まで微調整されたかが明確になり、レベル2宇宙が存在するのかしないのか、可能性が絞り込まれてくるはずである。

 量子コンピューターの研究開発が実を結べば、レベル3宇宙の新たな存在証明となる。量子コンピューターは基本的に、並列計算にレベル3宇宙の並行性を利用するものだからである。一方では「ユニタリー性の破れ」を探す実験も進みつつあり、もしもこの証拠がつかめた場合、レベル3宇宙は存在しないことになる。

 そして最終的には、一般相対性理論と場の量子論の統合という現代物理学最大の難問が解決されるかどうかで、レベル4宇宙に対する見方が大きく左右される。私たちの宇宙に厳密にマッチする数理的構造が見つかるか、あるいは数学的に理不尽な壁にぶつかってこの仮説を放棄せざるをえなくなるかのいずれかとなる。

 だから、私たちも並行宇宙の存在を信じてみてはいかがだろうか。これに対し、並行宇宙に関する議論は何の役にも立たないうえ、いかにも奇妙すぎるという反論もある。決して観測できない世界を仮定するなど、「オッカムのかみそり」(「最も単純な説明が最良である場合が多い」とする原則)に照らしても説得力を欠く。異なる世界が無限に存在するほど、自然は浪費家ではないはずである。

 しかし、この議論は裏を返すと、マルチバースの存在を支持することにもなりうる。自然が本当に浪費しているのは何だろう。空間や質量、原子などではないのは確かである。レベル1マルチバースにしても、すでにこれらを無限に含んでいるのだから、そのほかに少しくらい無駄にするものがあっても何の問題にもならない。重要なのは、単純明快さが損なわれるかどうかである。

 全体集合はしばしばその構成要素よりも単純な場合がある。例えば整数全体の集合を考えよう。全集合と1つの数字のどちらが単純だろうか。素朴に考えると、数字1つのほうが単純に思える。しかし、整数全体を生成するコンピュータープログラムはとても簡単で、これに比べると大きな数1つを記述するほうがずっと長い行数を占めることもある。実は全体のほうが単純なのである。

 同様に、アインシュタインの場の方程式に対する解の全体集合は、個々の解よりも単純で、一般解はいくつかの方程式で表現できるが、個々の解を求めるには、ある超曲面上での膨大な初期値を特定する必要がある。つまり、集合の中の特定の要素に関心を絞ると複雑さが増し、すべての要素をまとめ上げていた全体性に本来備わっていた対称性や単純さが損なわれてしまうということである。

 この意味では、高レベルのマルチバースほど単純である。私たちの宇宙に比べ、レベル1マルチバースは特別な初期条件を設定する必要がないという点で単純である。そして、レベル2では物理定数を特定する必要もなくなり、レベル4になると一切を特定しなくてよくなる。一見すると豊かな複雑さも、すべては観測者(蛙の視点)が主観的に認識するものの中にある。鳥の視点に立てば、マルチバースほど単純なものはない。

 マルチバースの概念が奇妙すぎるという不満は、科学というよりは美意識の問題だろうし、そもそもアリストテレス的世界観に立った場合だけに問題となるものである。奇妙だからといって、では何だというのだろうか。実在の本質に迫る深遠な問いに対する答えが、奇妙なものではないとでもいうのだろうか。私たちは遠い祖先から今日に至るまで、日常の物理現象に関する直観を育んできた。進化の過程で、それが生存競争に有利だったからである。逆にいえば、日常世界をひとたび離れれば、奇妙に見える事柄を予測するほうがむしろ当然といえよう。

 4つのマルチバースに共通する特徴は、並行宇宙に本来備わっている単純さと、おそらくはこれ以上明快なものはないといえるほど鮮やかな理論である。これら宇宙の存在を否定するには、実験的に確かめられていないプロセスや場当たり的な仮定を加えるなどして、理論を複雑にしなくてはならない。例えば、空間が有限であるとか、波動関数が収縮するとか、存在論的な非対称性などを持ち込まねばならなくなる。

 結局のところ、無駄であか抜けしないのはどちらなのかという判断になる。たくさんの世界と、たくさんの論争のどちらを選ぶかである。おそらく私たちは、私たちの宇宙が奇妙であることにだんだんと慣れ、その奇妙さが魅力の一部であることに気づくだろう。

「レベル3マルチバース」

 レベル1と2のマルチバースは天文学者も手が届かないような遠く離れた並行宇宙だった。これに対し、レベル3のマルチバースは私たちのすぐそばにある。そしてそれは、量子力学の「多世界解釈」から生じるマルチ世界である。多世界解釈では、ランダムな量子過程によって宇宙が複数のコピーに分岐し、そのいずれもが現実になりうると考える。

 20世紀初め、量子力学の理論は物理学に革命を起こした。古典的なニュートン力学の法則に従わない原子の世界を説明することに成功したのだ。しかし一方では、量子力学の意味するところをめぐって激論が持ち上がった。

 量子力学では粒子の位置や速度といった古典的な事柄に基づいて宇宙の状態を記述するのではなく、波動関数と呼ぶ数学的実体を使って記述する。シュレーディンガー方程式によると、この状態は数学用語で「ユニタリー変換」と呼ぶ様式に従って変化を続ける。これは、ヒルベルト空間という無限次元の抽象的な空間の中で、波動関数が回転するということだ。量子力学的世界は本来がランダムで不確定であると説明されることが多いが、波動関数の変化はランダムでも不確定でもなく、決定論的なものだ。

 1920年代の物理学者たちは、対象が観測されると同時に波動関数が古典的な確定状態へ「収縮」すると仮定した(コペンハーゲン解釈)。これによって観測の問題にはうまく説明がついたが、量子力学に本質的な不確定さがつきまとうことはかわらない。

 その後、1957年にプリンストン大学のエヴェレットは、量子論によれば古典的実体はさまざまな実体の重ね合わせへと分岐していくが、観測者にとってはこの分岐がわずかなランダムさとなって確率的に見えるにすぎない。その確率が、かつての収縮仮説から導かれる結果とぴったり一致する。こうした古典的世界の重ね合わせがレベル3マルチバース(量子の多重世界)でる。

 エヴェレットの多世界解釈は論理的にも最も明解な解釈であるが、専門家にも難解なものとされてきた。しかし、理論を考察するうえで2つの視点があると考えれば理解しやすい。1つは数式を使って研究する物理学者の視点あり、これは鳥が上空から全景を見渡すようなもので、「外部からの眺め」といえる。もう1つは数式が記述する世界の中にいる観測者が見る「内部からの眺め」である。鳥とは違って、自分自身が風景の中にいる蛙の立場に例えられる。

 鳥の視点から見たレベル3マルチバースは単純で、ただ1つの波動関数が見えるだけである。この波動関数が時とともに穏やかに、しかも決定論的に変化していく。分裂したり併存したりはしない。波動関数の変化によって記述される抽象的な量子世界は、その内部に古典物理学では記述できない多くの量子現象を含むのことはもちろん、古典的な事象の系列をたくさん含んでいる。そして、どんな事象が起きるのかという“物語の筋”が分裂と融合を繰り返す。

 一方、蛙の視点からは、こうした全体像のごく一部しか認識できない。自分がいるレベル1宇宙が見えるだけである。レベル3並行宇宙にいる自分のコピーは、「量子デコヒーレンス」という過程のせいで見えなくなってしまう。量子デコヒーレンスとは、量子系の干渉が環境との相互作用によって失われる現象で、波動関数がユニタリー性を保ちつつ収縮する過程と同じである。

 観測者が何らかの判断を下す時には、脳の中で量子効果が働いて結果の重ね合わせ状態が生じる。例えば「この記事を読み続ける」と「読むのをやめる」との重ね合わせだ。ある人が何かを決定するという行為を鳥の視点から眺めると、その人が複数に分裂して見える。記事を読み続ける人と、読むのをやめてしまう人に分かれて見えるのだ。しかし当事者は蛙の視点に立っているので、分裂したもう1人の自分の存在には気がつかず、単なる不確定さとして感じる。読み続けるかどうかは、確率の問題となる。

 以上の話は奇妙に思えるかもしれないが、これとまったく同じ状況がレベル1マルチバースの中でも生じる。あなたはこの記事を読み続けると決めてくれたわけだが、遠く離れた銀河にいる「もう1人のあなた」は最初の段落を読んだだけで放り出した。レベル1とレベル3の違いは、「もう1人のあなた」がどこにいるかという点だけである。レベル1の場合は、古き良き3次元空間のどこかにいる。レベル3の場合は、無限次元のヒルベルト空間の中、量子論的に分岐した世界にいる。

 レベル3の存在には1つの重大な前提がある。波動関数の時間的変化がユニタリーであるという仮定だ。これまでの実験では、ユニタリー性に反する例は見つかっていない。過去数十年、C60分子や長さ数kmの光ファイバーなど、大きな系でもユニタリー性が確認されてきた。ユニタリー性の問題はデコヒーレンスの発見をきっかけに理論研究も盛んになっている。

 量子重力論の理論家たちはユニタリー性を疑問視してきた。ブラックホールの蒸発に伴う情報の破壊は非ユニタリーな過程になるからだ。ブラックホールの事象の地平線近傍で生じる真空のゆらぎのためにブラックホールは黒体放射エネルギーを周りに放出し、しだいに質量を失ってついには消滅する(蒸発)。これに伴い、ブラックホール内に落下した情報も消失してしまうことになる。この情報の消失を避けようという理論的試みも進められている。

 しかし最近、ひも理論の研究で画期的な進展があり、「AdS/CFTコレスポンデンス」(負の宇宙定数を持つ反ド・ジッター時空(Ads)と、コンフォーマル変換に対して不変な場の理論(CFT)は相互に対応がつき、同等である)と呼ばれる考え方によって、量子重力もユニタリーであることが示された。だとすると、ブラックホールが情報を破壊することはなく、単にどこか別の場所へ転送しているにすぎない。

 物理現象がユニタリーなら、ビッグバン初期に量子ゆらぎがどのように働いたかという標準的な描像を改めねばならない。そうした量子ゆらぎからは無秩序な初期条件は生まれない。むしろ、考えうるすべての初期条件の量子的重ね合わせが生じ、そうした初期条件が同時に併存した。その後、これらがデコヒーレンスによって分岐を起こし、古典的に振る舞うようになった。


 量子力学の考え方によると、膨大な数の並行宇宙が存在する。ただし、「それがどこに存在するか」という点については、 解釈を拡張する必要がある。私たちが実感できる通常の空間ではなく、考えうるすべての状態を含む抽象的な領域の中に存在すると考えるのである。世界が取リうるすべての状態、量子力学的な意味での状態)の1つひとつが、異なる宇宙に対応すると考えられるだろう。こうした並行宇宙の存在は、波動の干渉や量子計算といった実験を通じて垣間見ることができる。

 あるハッブル体積(レベル3)の中での量子分岐への結果の振り分けは、ある量子分岐(レベル1)の中にあるさまざまなハッブル体積への結果の振り分けとまったく同じである。下の図は、「量子のサイコロ」によって表現した、「エルゴード性」と「時間の本質」を描いたものである。また、量子ゆらぎが持つこの特性は統計力学用語で「エルゴード性」と呼ばれる。

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図:レベル3マルチバース
エルゴード性:エルゴード性の原理によると、量子並行宇宙はもっと平凡なタイプの並行宇宙と等価である。1つの量子宇宙はやがて状態が確定した複数の宇宙に分岐する(左)。しかし、こうして新たに生まれた宇宙は、どこか別の空間(右、図ではレベル1マルチバース)にもとから存在していた並行宇宙と変わらない。さまざまな事象がどんな順序で起きるのかを体現したものが並行宇宙だと考えるのがホイントである。この考え方はどんなタイブの並行宇宙にも当てはまる。
時間の本質:普通、時間は変化を記述するための手段と考えられることが多し、物質はある瞬間にある配置を取り、次の瞬間には別の配置になるという具合である(左)、しかし並行宇宙の概念では別の見方ができる。考えうる物質配列が一連の並行宇宙の中にすべて含まれているなら(右)、時間とはこれらの宇宙に順番をつけるやり方にすぎない。個々の宇宙は静的なもので、変化は幻想ということになる。もっとも、この幻想は興味深いものではあるが。

 同じ理屈がレベル2にも当てはまる。対称性の破れによって生じる結果は唯一のものではなく、すべての結果の重ね合わせとなり、これが速やかに分岐する。だから、もし物理定数や時空の次元などがレベル3に生じる量子分岐の間で異なるなら、レベル2並行宇宙の間でも同様に異なるだろう。

 言い換えると、レベル3マルチバースはレベル1やレベル2となんら変わらない。同じ多数の宇宙が、より見分けにくい形で現れているだけである。別の量子分岐の中で、同じ“物語の筋”が何度も何度も繰り返される。このように考えると、エヴェレットの理論に関して巻き起こった議論も、比較的議論の少ないマルチバース(レベル1と2)の考え方によってあっけなく終息するように思える。

 レベル3マルチバースが意味するところは深遠で、物理学者たちはその意味を探り始めたばかりである。例えば“物語の筋”が分裂するなら、「宇宙の数は時とともに指数関数的に増えていくのか」という疑問がある。意外なことに、答えは「ノー」である。

 鳥の視点からは、もちろん1つの量子宇宙が見える。蛙の視点からは、その瞬間に区別可能な宇宙の数が問題になる。惑星の位置が異なっている宇宙や、あなたが誰か別の人と結婚しているような宇宙などである。量子レベルでは、温度が10^8K以下なら10の10^118乗個の宇宙が存在する。これは膨大な数ではあるが、有限である。

 蛙の視点では、波動関数の変化はこれら10の10^118乗個の状態の1つから別の1つへと移る果てしない流転に相当する。いま、あなたは宇宙Aにいて、この文を読んでいる。しかし、次の瞬間には別の宇宙Bに移り、いま現在は宇宙Aにいた場合とは別のこの文を読んでいる。宇宙Aも宇宙Bも同一の観測者を含んでいるのだが、宇宙Bにいる観測者のほうが少しだけ記憶が多い。

 存在しうるすべての状態があらゆる瞬間ごとに存在し、時間の経過はそれを観察することによって実感されるのかもしれない。この考え方はイーガンが1994年に著したSF小説『順列都市』に見られるほか、英オックスフオード大学の物理学者ドイチュや独立の物理学者バーバーらが発展させたものである。このように、並行宇宙の考え方は時間の本質を理解するうえでも不可欠となるだろう。

「レベル2マルチバース」その2

 さて、次はさまざまなレベル1マルチバースが集まった無限集合を下の図1に示す。個々のレベル1マルチバースを比較すると、時空の次元や物理定数の値が異なっている場合もある。

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図1:レベル2マルチバース
インフレーション理論からは、レベル1よりもやや精巧な別種の並行宇宙の存在が浮かび上がってくる。私たちのレベル1マルチバース(私たちの宇宙とそれに隣接する空間領域)は泡のようなもので、これがより大きな、ほとんど空っぽの空間に埋め込まれているという考え方である。空間の中には別の泡があり、私たちの泡とは切リ離されている。雲の中の水滴のようなイメージである。こうした核ができる際、それぞれの泡では量子場が異なるため、他の泡とは異なった特性が生まれる。

 また最近注日のインフレーション理論の改良版の一つで、もともと空間は真空のエネルギーの高い状態にあり、いたるところでこの真空のエネルギーがカオティックに転げ落ちることで多くの宇宙が作られるとした「カオス的永久インフレーション理論」は、こうしたマルチバースの存在を予言している。

 この理論は、落下の遅い場所の空間はインフレーションを続けてどんどん体積も増えるので、全空間の真空のエネルギーが落下して消えることはない。したがって、大きな空間スケールで見ればインフレーションは永遠に続き、そこから常に新たな宇宙が作られ続けるとする理論である。これらマルチバースの集合体が「レベル2マルチバース」を形作ることになる。

 インフレーション理論はビッグバン理論を拡張したもので、宇宙がなぜこんなにも大きく、均一で平坦なのかなど、ビッグバン理論では未解決だった問題に決着をつける考え方である。宇宙誕生の際に空間が急激に広がったとすると、こうした問題に一挙に説明がつく。空間の急拡大は素粒子の理論などから予言され、これを支持する証拠も得られている。

 「カオス的永久」という形容は、非常に大きなスケールで生じる出来事を指している。空間は全体として永久に膨張を続けるが、その中のいくつかの領域は拡大をやめ、個別に「泡」のような構造を作る。発酵して膨らんだパン生地の中に気泡ができるのに似ている(図2参照)。こうして無数の泡ができ、それぞれがレベル1マルチバースの“タネ”になる。泡の大きさは無限で、物質によって満たされている。物質はインフレーションの原動力となったエネルギー場によって生じたものである。

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図2:泡の生成
ある種の量子(インフラトン)の場が空間の急激な膨張を引き起こす。空間の中では、ランダムなゆらぎが存在し、この量子場はなかなか消えずに残る。しかし、ある領域では量子場が弱まり、膨張が緩やかになる。こうした領域が泡になる。

 これらの泡は、地球から光の速度で旅しても永久にたどり着けないという意味で、“無限の彼方”にある。泡と泡の間の空間が急速に広がり、私たちがいかに速く旅しようとも追いつかないからだ。私たちの子孫も、他のレベル2マルチバースに住む「もう1人の自分」を見ることはできない。また同様の理由で、レベル1マルチバースでも膨張が加速しているなら、「もう1人の自分」を見ることはやはり不可能になるだろう(最近の観測結果は宇宙膨張の加速を裏付けている)。

 レベル2マルチバースはレベル1よりもずっと多様だ。それぞれの泡は初期条件が異なるだけでなく、常識的には不変に思える自然の本質までもが異なっている。

 現代の物理学では、時空の次元や基本粒子の性質、数々の物理定数などが物理法則に組み込まれているのではなく、「対称性の破れ」と呼ばれる過程の結果として生じたと考えるのが一般的である。例えば私たちの宇宙にはかつて9つの空間次元があり、それらは対等の関係にあったと考えられている。宇宙のごく初期に、うち3つの次元が宇宙とともに膨張し、いま私たちが見ているような3次元空間になった。残り6つの次元は現在では観測できない。これらがドーナツ形の位相構造として極微の世界にとどまっているか、9次元空間中の3次元の膜(ブレーン)にすべての物質が閉じ込められてしまったかのどちらかだ。

 このように、複数な次元の間に存在していた本来の対称性が破れた。カオス的インフレーションを引き起こした量子ゆらぎが原因で対称性が破れたのだが、このゆらぎが泡によって異なったとすれば、対称性の破れ方も異なった可能性がある。ある泡では空間が4次元となり、別の泡は3世代ではなく2世代のクォークしか含まず、またあるものは私たちの宇宙よりも大きな宇宙定数を持っているのかもしれない。

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図3:レベル2マルチバースが存在する証拠?
宇宙論研究者たちは私たちの宇宙の特性を精査した結果、レベル2マルチバースが存在すると推論している。根拠となる特性とは、自然界に働く力の強さ(上の左図)や観測される時空次元(上の右図)などである。これらは私たちの宇宙が誕生したときにランダムな過程によって確立したが、結果的には私たち生命が存在しうる値になっている。これはとリもなおさず私たちの宇宙とは異なる値をもつ別の宇宙の存在を示唆している。

 レベル2マルチバースの誕生をめぐっては、もう1つ別のシナリオも考えられる。個々の宇宙が生まれ、そして滅びていく循環過程によるという考え方である。スタインハートとテュロックが提唱するモデルによると、私たちの宇宙と文字通り平行な3次元のブレーンがもう1つあり、より高次元の世界の中でこれらが隔てられているにすぎないというものである。

 この並行宇宙は私たちの宇宙と相互作用しているので、実は別物とはいえない。しかし、これらブレーン宇宙の集合は1つのマルチバースといえ、おそらくカオス的インフレーションからできる宇宙と同様な多様性を備えているだろう。一方、ペリメター理論物理学研究所のスモーリン はこうしたブレーンではなく、ブラックホールを通じて新たな宇宙が発生し、やはり多様な特質を備えたレベル2マルチバースができるという考え方を提唱している。

 マルチバースの考え方が信頼を得るにつれて、物理現象の確率をどう計算するかという厄介な問題が無視できなくなってきた。この問題はレベル1マルチバースではまだ何とかしようがあるが、レベル2ではかなり深刻になり、レベル3、レベル4となると手がつけられなくなる。

 多数の観測者が互いに連結していない宇宙に分かれている場合、観測者たちに順番をつける自明な方法はない。ある統計的な重みづけ(数学では「測度」と呼ぶ)によって、 多数の宇宙から抽出するしかない。

 例えばタフツ大学のビレンキンらはレベル2マルチバースについてさまざまな宇宙論的パラメーターの確率分布を予測した。多数の宇宙が異なる膨張をし、その体積に比例して可能性が増えると考え、体積の大きな宇宙には統計的に大きな重みを与えた。しかし、無限に大きい宇宙が他よリ2倍の膨張をしたとしても、2 ×∞=∞だから、どちらが大きいかに客観的な意味はない。

 さらに、トーラス型の宇宙は体積は有限でも果てはないから、外の視点から見ても内から見ても、無限の体積を持つ周期的な宇宙と同じである。となると、小さな体積の宇宙に対する統計的重みを減らして本当にいいのだろうか? また、レベル2ではなくレベル1マルチバースを考えても、10の10^118乗メートルを超えるとハッブル体積の繰り返しが始まる(周期的ではなく、ランダムにではあるが)。

 私たちの宇宙は比較的単純で基本的な数理構造だと考えられるのだから、基本的な対称性の高い宇宙には大きな重みを付けるべきではないのか? さもないと私たちは偶然にも特別な宇宙に住んでいることになってしまう。測度を正しく把握するのはそう単純ではなさそうである。

 今の物理学者にできることは、選択効果を考慮に入れながら、何が観測されうるかの確率分布を計算することだけである。その計算結果は、私たちの存在と矛盾するような突飛なものではなく、ありふれたものであるはず?

「レベル2マルチバース」その1

 前回と前々回の2度に渉って、テグマーク が「レベル1マルチバース」という多宇宙について記述してきました。

 この「レベル1」とは、約420億光年先の「宇宙の観測地平線(宇宙の地平線)」までは観測できるが、この地平線で宇宙が終わっていると考える理由は特にない。そして、地平線の向こうにも、私たちの周囲と同じような領域が数多く、あるいは無限に存在していてもよいはずで、その各領域では,初期の物質分布は異なっていたかもしれないが、同じ物理法則が支配している。現在,宇宙論研究者の大半はこのタイプの多宇宙解釈を受け入れている。

 しかし、一部の研究者はさらに踏み込んで、物理法則や宇宙進化の歴史、さらには時空次元の数さえも違うまったく別の宇宙が存在すると主張する。いくつかの宇宙は生命を宿しているかもしれないが,ほとんどの宇宙は生命が誕生しない不毛の地だろう。この「レベル2」の多宇宙解釈の代表的な支持者はアレックス・ビレンケンである。彼は、「宇宙は無限であると同時に、有限、進化しているのに、静的、永遠でありながら、始まりがある」「私たちの地球とまったく同じ惑星が遠く離れたどこかの領域にあり、そこでは地球と全く同じ惑星が遠く離れたどこかの領域にあり、そこでは地球と同じ海岸線と地勢を持つ大陸があり、私たちのクローンを含めて地球と同じ生き物が住んでいて、その内の何人かはこの本を手に持っている」と、彼の著書、「多世界宇宙の探検(日経)BP社)」の中に書き残している。

 この本の「第六章 捨て去るには美しすぎる」に「美しい終了の問題」という箇所があります。ここで真空と水の沸騰をインフレーション理論に結びつけているのですが、やはり、美しすぎるように感じます。少し長くなるかもしれませんが、この第六章の序文を掲載させて戴きます。


・・・・・
 どんな物理学者でも、数日前に考えついた美しい理論に致命的な欠点を発見したときの落ち込む感覚を味わっています。悲しいことに、たくさんの美しい理論がこの運命をたどります。インフレーション理論の場合もそうでした。いつものように悪魔はちょっとしたところに潜んでいましいた。詳しく検討してみると、偽の真空は予想していたほどスムーズに崩壊しないのです。

 真空が崩壊する過程は水の沸騰によく似ています。真の真空の小さな泡がランダムに出現して、偽真空の真んの中で膨張します(下図)。

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図:真の真空の小さな泡がランダムに勢いよく飛び出して膨張する。先にできた泡の方が大きく成長している。

 泡が成長するとき、泡の内部はほとんど空のままです。偽の真空が真の真空に姿を変えることから生まれたすべてのエネルギーは、拡大してゆく泡の壁に集中します。泡同士が衝突してくっつくとき、泡の壁は崩壊して素粒子が放出されます。最終的には、物質の熱い火の玉で満たされた真の真空が姿を現します。

 泡がすまじさ割合でい出現すると、こういうことが実際に起こるので、真空が崩壊する過程全体は、「倍増時間」すなわち宇宙の体積が二倍になる時間よりも短い時間で完了してしまうのです。ということは、宇宙が均一で平坦になるよりもはるか以前に、インフレーションはあっという間に終わったということです。反対のケースだったらどうなるでしょうか? 私たちに興味があるのは、反対のケースです。泡形成の割合が低ければ、泡が衝突し始めるときまでに、宇宙は何倍にも膨張することができます。しかし、このケースも難点を抱えているのです。

 問題は、泡の間の空間が偽の真空で満たされていて、そのため急速に膨張しているということです。泡は非常に速く膨張し、光速に近い速度ですが、それでさえ偽の真空の指数関数的な膨張には追いつきません。泡が形成された後、宇宙の体積が二倍に膨張するまでの間に泡が衝突しなければ、それ以降泡同士の間隔はどんどん広がる一方で決して衝突しません。

 そうするとインフレーションはどうやっても終わらないという結論にいたります。泡は際限ない大きさに膨張し、泡と泡の間の拡大するすき間の中で新しい小さな泡が出現し続けます。その結果、インフレーショにンよって形成される見事な均一性は完全に破壊されてしまいます。インフレーション的な膨張には適切な終り方が欠けているという問題は、「美しい終了の問題」として知られるようになりました。

 グースは、新しい理論を発表した二、三か月後に、問題があることに気づきました。インフレーションについての彼の論文は、そのときまだ書かれていませんでした。理由は簡単です。アラン・グースほど論文を書き上げる仕事を先のばしにする人はいないのです(彼との共同研究プロジェクトにたくさん関わってきた私は、すぐにそのことに気づきました)。もちろん、グースは自分の理論に重大な欠点を見つけてがっくりきていました。しかし依然とし彼は、そのアイデアは間違っているとしりぞけるには美しすぎると感じたのでした。一九八〇年の八月にようやく論文に着手したとき、こういう言葉で論文を締めくくっています。「私がこの論文を発表するのは、誰かがインフレーションのシナリオの望ましくない点を取り除く方法を見つけ出してくれることを望み、それを励ましたいからである」。
・・・・・


 話が少しそれてしまいましたが、ビレンケンの書籍を紹介した理由は、今回の主題である「レベル2マルチバース」についての考察に、「インフレーションが生む無数の泡宇宙」と非常に深い関係があるからなのです。

 私が『多世界宇宙の探検』を読んで、この上の図を見たときの感動(美しさ)が今でも忘れられません。この時、四角形で囲まれた空間(水)がダークエネルギーで満たされた「空」に思えたのです。そして、このエネルギーが水中の1点(特異点)にエネルギーを注入して(ホワイトホール?)気体である水蒸気(私たちの時空構造を持った宇宙)に相転移(インフレーション)を起こし、それがビッグバンとして観測されたのでは?

 この様に解釈すると、ホワイトホールから泡が成長するとき、ビレンケンの解釈とは全く逆の宇宙が創造されるのかもしれません。そして、泡の内部(エネルギーを注入して素粒子に満たされた物質宇宙)と泡の壁(ビッグバンの始まり)に対してのエネルギーの流れ方に対する思いを替える必要があるのかも?

「レベル1マルチバース」その2

 ところが、アインシュタインの重力理論は、この直観的理解に疑いを差しはさんだ。もし空間が凸の曲率を持つか、位相幾何学的に特異な形をしているなら、空間は有限でありうる。球形やドーナツ形(1つ穴)、あるいは8の字形(2つ穴)の宇宙なら、体積には限りがあるものの端はない。

 宇宙マイクロ波背景放射の観測によって、こうした可能性を詳しく調べられるようになった。しかしこれまでのところ、結果は否定的である。観測データは空間が無限であるとするモデルを支持しており、有限モデルには厳しい制約条件がつく。

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図4:WMAPによる観測データ

 宇宙に関する観測結果によると、私たちが観測可能な宇宙の外側でも、空間はどこまでも広がっていると考えられる。WMAP(ウィルキンソン宇宙マイク口波非等方性探査機)がマイク口波背景放射のゆらぎを観測した最近のデータでは、最も大きなゆらぎでも角度にして約0.5度にすぎなかった(図4)。

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図5:空間が無限である証拠

 これを幾何学的に解釈すると、 空間は非常に大きいか無限であることを示している(図5左のグラフ)。ただし異論もあり、グラフ左端部分に見える観測データ(黒)と理論値(緑)の不一致が、空間が有限であることの証拠だと考える宇宙論研究者もいる。このほか、WMAPや2dF銀河赤方偏探査(英国とオーストラリアが共同で進める宇宙観測計画)を通じて、宇宙空間は大規模スケールで見るとほぼ均一に物質が分布していることがわかった(図5右のグラフ)。これは、他の宇宙も私たちの宇宙と基本的には似たものであることを意味している。

 上で示したものとは別の可能性として、「空間は無限だが、物質は私たち周辺の限られた領域に閉じ込められている」という考え方がある(島宇宙モデル)。同種の考え方として、広い範囲を見るほど物質の分布はまばらになり、全体としてフラクタルなパターンを描いているとするモデルもある。いずれの場合も、レベル1マルチバースを構成する個々の宇宙は、ほとんどが空っぽで変化のないものになる。

 しかし、銀河の3次元分布やマイクロ波背景放射を調べた最近の観測結果から、大きなスケールで見ると物質は単調・均一に分布しており、10^24mを超えるような構造は明確には存在しないことがわかった。このパターンが続くとすると、私たちの観測可能な宇宙の外側にも惑星や恒星、銀河が満ちあふれていることになる。

 レベル1並行宇宙にいる観測者はいずれも私たちと同じ物理法則を体験するが、その初期条件は異なる。最新の理論によると、ビッグバン初期に物質はある程度の不均一さを持ったまま広がり、その結果さまざまな分布を取るようになった。私たちの宇宙は物質分布がほぼ均一で、初期の密度ゆらぎは10万分の1程度だったとみられるが、宇宙論研究者はこれがごく典型的な宇宙の例だと考えている。

 この考え方によると、「もう1人のあなた」のうち最も近いものは10×10^28乗メートル離れたところにいる。また、私たちが今後100年間に観測する事象は私たちを取り巻く半径100光年の球の中で起きているが、これと同じ球が約10×10^92メートル彼方にもあり、その中心では私たちが観測するのとまったく同じ事柄が観測される。さらに、10の10^118乗メートル先には、私たちの宇宙と完全に同じハッブル体積が存在するだろう。

 以上は極めて控えめな推算で、ハツブル体積の温度が10^8K(Kは絶対温度)を超えないとして、その中に含まれる量子状態の数だけをもとに導き出した結果である。そのような温度のハツブル体積に何個の陽子を詰め込めるかを考えると、答えは10^118個となる。これら粒子の1つひとつが実際に存在するかしないかによって、2の10^118乗通りの配置がありうる。

 そこで、2の10^118乗個のハッブル体積が収まる箱を考えると、すべての可能性はこの箱の中に尽くされることになる。この箱の大きさは概算でざっと10の10^118乗メートルだ(前回ブログの図3参照)。箱の外側では、私たちの宇宙を含め、宇宙が繰り返す。熱力学や量子重力理論によって宇宙の総情報量を見積もった結果からも、ほぼ同じ数字が導かれる。

 もっとも、惑星の形成や生物の進化が都合よく起きたとすれば、この数字よりもずっと近いところに「もう1人のあなた」が存在するだろう。私たちの宇宙には生物がすめる惑星が少なくとも10^20 個はあり、地球によく似た惑星もあると考えられるからだ。

 レベル1マルチバースの枠組みは宇宙論の最新理論を検証するのによく利用されている。例えばマイクロ波背景放射の観測結果から「有限で閉じた宇宙」はありえないと結論づけられた例を考えよう。背景放射の分布を図に描くと温度の高い領域と低い領域のスポットができるが、これらの大きさは空間の曲率に依存した特徴を示す。実際に観測されたスポットは宇宙が「閉じた球」であるには小さすぎた。

 ただし、厳密に考えると別の可能性も残る。別のハッブル体積では、こうしたスポットの平均サイズもまちまちに変わるから、私たちの宇宙が例外的である可能性もある。実は閉じた球形なのだが、たまたま異常に小さいスポットしか見られないのかもしれない。宇宙論研究者たちが「99.9%の確度で球形宇宙モデルはありえない」といっているのは、「そのモデルが正しいとすると、私たちが観測したよりも小さなスポットを示す宇宙は1000個に1個以下だ」という意味になる。

 ここからわかるように、私たちは別の宇宙を見ることはできないが、それでもマルチバース理論が正しいかどうかを検証できる。どのような並行宇宙の集合が存在するかを予測し、その確率分布を特定することが重要である。私たちの宇宙は妥当でごくありふれた宇宙であるはずだが、もしそうでないとすると、私たちはマルチバース理論が示す“ありそうもない宇宙”に住んでいることになり、理論そのものが行き詰まってしまう。これは「測度問題」と呼ばれ、非常に厄介な問題となる。

「レベル1マルチバース」その1

 物理学はかつては空想と見なされていたような抽象的な概念をも取り込みながら、その世界を広げてきた。丸い地球、目に見えない電磁場、高速運動における時間の遅れ、量子状態の重ね合わせ、曲がった空間、ブラックホールなどはそうした概念の例である。当然、マルチバースの考え方もその中の一つである。

 マルチバースは、相対論や量子力学といった確固たる理論を基礎にしているうえ、経験主義科学の基本をなす2つの特徴を備えている。つまり、理論に基づいて何かを予測することができ、また、それ自体が誤りだと立証される余地も残している。その発想は、これまで挙げてきたマルチバースのように複雑なものではなく、ある意味で、宇宙の「定義」を見直すようなものだと言える。

 アメリカのマックス・テグマークが提唱する「並行宇宙」の考え方は、「因果関係を持てる空間だけを同じ宇宙だと考えよう」と言っている。すなはち、光の届かない「事象の地平線」より向こうの空間とは因果関係を持つことはできない。そして、その場所は時空がつながっていても、情報や物質をやり取りすることができません。

 宇宙に関する最近の観測結果からさまざまなことが予想され、並行宇宙の考え方もその1つです。観測によると空間は無限に広がっていて、無限の空間のどこかでは、いかにあリそうにもない事柄であっても、可能性のあるものなら現実となる。私たちが望遠鏡を使っても観測できない外側には、 私たちの宇宙とそっくりな別の宇宙空間があり、これが並行宇宙の一つで、この種の並行宇宙までの平均距離を計算することも可能なのです。

 では、現在の宇宙で私たちが因果関係を持てるのはどこまでなのか。テグマークによれば、その領域は差し渡し420億光年程度です。つまり、私たちは420億光年先までの光は見ることができるということになります。

 これを聞いて、違和感を抱いた人もいるでしょう。なぜなら、宇宙の年齢は、138億年であり、私たちが見ることのできる「最古の光」は宇宙の晴れ上がりと同時に直進したCMBですから、それは138億光年先に見えるはずです。しかし、それを考えるときには、宇宙が膨張していることを計算に入れなければなりません。138億年かけて光が飛んでいるあいだに、その空間は広がっているので、距離は伸びている。それを含めて計算すると、138億年前に出た光は、約420億光年先まで遠ざかっていることになるのです。

 テグマークは、この420億光年の幅を持つ空間が「私たちの宇宙」だと考えました。それより遠い場所は、空間的にはつながっているものの、因果関係を持つことができないのだから「別の宇宙」と考えてよいのではないかと言うのです。

 宇宙の広がりに思いを馳せたとき、誰しも一度は「その外側には何があるのだろう」と考えたことがあるでしょう。テグマークに言わせれば、私たちの宇宙は420億光年先までで、その「外側」には同じような宇宙がたくさんあります。また、それだけではなく、テグマークの仮説が何よりもユニークなのは、その因果関係を持てない無数の宇宙の中に、「この宇宙」とまったく同じ宇宙があるのではないかと考えたところです。

 このような並行宇宙は物理的に信頼のおける考え方であり、未確認の理論まで考慮に入れると、 私たちの宇宙とはまったく特性が異なる宇宙や、物理法則が異なる宇宙も存在しうるというのです。こうした宇宙を想定することで、私たちの宇宙そのものが持つさまざまな謎や時間の本質、私たちが物理的世界をなぜ理解可能なのかといった根本的な問題に答えることもできるかも知れません。

 並行宇宙のタイプには、これまでに次のような4タイプもの異なる並行宇宙が提唱されています。
レベル1:私たちの宇宙の外側に
レベル2:インフレーションが生む無数の泡宇宙
レベル3:量子の多重世界
レベル4:数理的構造そのものが宇宙


●レベル1::私たちの宇宙の外側に

 先に触れたように「別のあなた」が住む宇宙が数多く存在する。これら宇宙の集合体が「レベル1マルチバース」で、最も異論の少ないタイプである。

 「レベル1マルチバース」の並行宇宙のうち最も単純なのが、私たちから遠すぎるためにまだ見ることのできない空間領域があるという考え方である。現在、私たちが見ることが可能な最も遠い場所は約4×10^26m、約420億光年離れた場所で、この距離はビッグバン以降に光が移動した距離に相当する(138億光年よりも大きいのは宇宙膨張の効果によって距離が引き伸ばされるため)。
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図1:ハッブル体積
ハッブル体積とは、宇宙膨張の後退速度が光速未満となる宇宙の体積である。ハッブル体積に含まれる3次元の宇宙の大規模構造を示す。この尺度では、数多くの超銀河団は微粒子のように見える。おとめ座超銀河団(天の川のある超銀河団)は、ハッブル体積の中心にあるが、小さすぎて見えない。

 観測可能な宇宙は「ハッブル体積」や「地平線内体積」などとも呼ばれるが、単に宇宙といえば普通はこのことである。同様に「もう1人のあなた」が住んでいる惑星にも、それを中心として球状に広がる宇宙がある。これが最も簡単な「並行宇宙」の例だ。それぞれの宇宙はもっと大きな「マルチバース(多宇宙)」の一部にすぎない。

 レベル1の並行宇宙はどれも基本的には私たちの宇宙と同じだが、初期の物質配置の違いによって差が生じる。

 現在は見えなくても、別の視点に移動すると見えるものなら、私たちはその存在を受け入れられる。水平線の向こうから姿を現す船が一例で、この場合はただ待っているだけで見えてくる。「宇宙の地平線」の彼方にある物体も、これに似た状況だ。観測可能な宇宙は1年間に1光年の割合で広がっている。より遠いところから発した光が届くようになるからだ。宇宙地平線の外側には無限が広がっており、私たちに観測されるのを待っている。

 あなたは「別のあなた」が視野に入るよりもずっと前に死んでしまうだろうが、観測可能な宇宙は時とともに広がり、さらに宇宙自体が膨張を続けるとすれば、どんどん遠くのものが見えるようになる。原理的には、あなたの子孫たちが非常に高性能の望遠鏡を使って「別のあなた」を観測できる時が来るだろう。

 そして、“そっくり宇宙”までの距離は、下の図2・3のようにあらわされる。
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図2:模擬的な宇宙の例

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図3:私たちの宇宙に当てはめると?

 レベル1マルチバースの存在はむしろ当然だといえる。そもそも、空間が有限だなどと、どうして考えられようか。「空間ここにて終わり――段差に注意」と書いた看板がどこかに立っているとでもいうのだろうか。だとしたら、その先には何があるというのか。

「宇宙誕生の重力波」はまだ証明されていなかった!

 今回、BICEP2チームが、初期宇宙の時空間の量子的な揺らぎを起源とする原始の重力波の存在を、世界で初めて確認したとして、宇宙が誕生直後に急膨張したとする「宇宙インフレーション理論」を裏付ける観測結果は本当に正しかったのでしょうか。

 今回は、驚異的な7シグマといわれる観測結果について、ナショナルジオグラフィックの記事より抜粋してお伝えします。詳しくは、下記を参照して下さい。

「宇宙誕生の重力波」はまだ証明されていなかった――小松英一郎氏緊急寄稿
http://nationalgeographic.jp/nng/article/20140328/390221/

 宇宙初期は熱い火の玉状態であった。その証拠に、火の玉宇宙を満たしていた光は、消え去る事なく今日でも宇宙を満たし、宇宙初期に関する貴重な情報を伝えてくれる。これが宇宙マイクロ波背景放射である。

 光にはさまざまな波長が含まれており、その輝度は波長によって異なる。火の玉宇宙の光の輝度を波長ごとに測定すると、測定データはドイツの物理学者マックス・プランクによって1900年に考案された「黒体放射」と呼ばれる理論曲線上に乗る。この曲線は温度を決めれば完全に決まり、データから得られた温度は絶対温度で2.7ケルビンと極低温である。
 これは、宇宙空間の膨張にともなって個々の光子がエネルギーを失い、宇宙が冷えたためである。このような低温の光は可視光で測定できず、可視光より千倍ほど波長の長いマイクロ波での測定が必要となる。現在、この火の玉宇宙の残光「宇宙マイクロ波背景放射」は、1立方センチあたり410個もの光子として測定できる。我々の周りには、おびただしい数の火の玉宇宙からの光子が飛び交っているのである。

 宇宙マイクロ波背景放射の温度は、(地球の運動によるドップラー効果の影響を除けば)どの方向を見てもほぼ2.7ケルビンである。しかし、1992年、COBE衛星が測定精度を大幅に改善した結果、実は数10マイクロケルビン程度、方向によって温度が異なる事が発見された。実に10万分の1の微弱な「揺らぎ」が発見されたのである。現在では、この微弱な揺らぎが重力によって増幅され、銀河、星、惑星、ひいては我々が誕生したと考えられている。

 それでは、この揺らぎはそもそもどこから来たのであろうか?

 この万物の根源への問いの答えが、今まさに得られようとしている。この問いに答えるのが、「インフレーション宇宙論」である。インフレーション宇宙論は、とんでもない予言をする。我々の宇宙は、宇宙開闢後、1兆分の1の1兆分の1のさらに1兆分の1秒という刹那に、1兆倍の1兆倍のさらに100倍以上という途方もない膨張をしたというのである。これは、原子核ほどの大きさが瞬く間に太陽系ほどの大きさになってしまう凄まじさである。常識的に考えて、そんな事があるわけがないと思うのが正常であろう。しかし、インフレーションのような途方もない主張を証明するのに必要な、途方もない証拠の鍵となるのが「揺らぎの起源」である。

 原子核ほどの大きさの極微の世界を記述するには、量子力学が必要となる。量子力学によれば、エネルギーの大きさは常に定まっておらず、揺らいでいる。しかし、このような揺らぎが問題となるのは極微の世界であるから、日常生活で揺らぎを問題にする事はない。しかし、インフレーションが状況を一変させる。極微の世界で誕生した量子的なエネルギーの揺らぎは、瞬く間に天文学的な大きさに引き伸ばされてしまうのである!

 すなわち、インフレーションは量子的な世界と天文学的な世界を結びつける役割を果たすのである。これらの考察から導かれる驚くべき結論は、銀河も、星も、惑星も、我々も、みなインフレーション中に生成された量子揺らぎから生まれた、という事である。この広い宇宙のどこに、いつ我々が生まれるのかは、宇宙開闢後間もなく既に決まっていたのである。

 このような途方もない説を、果たして受け入れられるであろうか。実験を行い、それが観測事実であるならば、受け入れざるを得ないのである。しかし、その観測事実には、決定的かつ圧倒的な説得力が求められる。

 そこで登場するのが「重力波」である。重力波とは、一言で言えば「動く空間の歪み」である。例えば、人間の身体としての私が持つ重力により、私の周りの空間はわずかに歪んでいる。このままだと歪みは動かないが、私が手を伸ばしてくるくる回れば空間の歪みも変化し、その変化は周りに伝わってゆく。これが重力波である。私が作る事のできる重力波は微弱すぎて問題にならないが、インフレーション中の量子揺らぎから作られた重力波であれば測定できる可能性がある。

 インフレーション中には、あらゆる波長を持つ重力波が作られる。例えば、波長が何10億光年もあるような重力波が作られる。そんなとてつもないものが発見されれば、インフレーションが証明されたと考えるしかないというのが宇宙論研究者の共通認識である。では、どうすればインフレーション起源の重力波の痕跡を発見できるのだろうか。

 ここで再登場するのが火の玉宇宙の残光「宇宙マイクロ波背景放射」である。重力波が火の玉宇宙を伝わると、宇宙マイクロ波背景放射に「偏光」をもたらす。その原理は次のようである。まず、光は空間を伝わる電磁場(電場や磁場の振動)である。太陽から来る光は、あらゆる方向に振動する電磁波を等量含むので、特定の方向の振動が強くない状態、つまり「無偏光」であると言う。この太陽光が、海面やガラス窓に反射され、我々に届いたとしよう。この反射によって、ある特定の振動方向(海面やガラス窓に平行な振動方向)を持つ電磁波のみが選択的に我々に届く。従って、「一方向から入射する光の反射」という現象を通して無偏光の光が偏光を持つようになるわけである。

 BICEP2は、このようにして生み出された宇宙マイクロ波背景放射の偏光を発見したと主張した。この発見が本当であれば、インフレーションが証明され、我々はついに万物の根源が何であったかを知るに至った事になる。

 しかし、彼らBICEP2チームが確かに成し遂げたのは、「未知の起源による宇宙マイクロ波背景放射の偏光の発見」である。ここから「インフレーション起源の重力波を発見」したと結論するには、クリアすべき2つの課題がある。

 まず1つは、測定された偏光の空間分布がインフレーション宇宙論から予測される通りである事。もう1つは、測定された偏光の強度と波長の関係が2.7ケルビンの黒体放射の曲線と一致する事である。

 BICEP2チームは、測定された偏光の空間分布が予測通りである事を示した。これはあまりにも衝撃的な驚くべき観測結果である。

 しかし、BICEP2が測定した光の波長は2ミリである。波長2ミリのデータ点しかない以上、測定された偏光の強度と波長の関係が黒体放射と一致する事を示すのは不可能である。彼らがその前に行ったBICEP1実験から得られた波長3ミリのデータを使って黒体放射と一致すると主張してはいるものの、BICEP1実験は装置の雑音が大きすぎて意味のある結論を出せていない。より詳しく言えば、何かを「発見」したと言うには、統計的有意性で「5シグマ」と呼ばれる指標(あるいはそれ以上)が必要なのであるが、「黒体放射と一致する」と主張できるのはたかだか2シグマ程度であり、これはとても発見とは言えないレベルである。

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BICEP実験が測定した偏光の空間分布。縦軸は偏光の強度を示し、横軸は右へ行くほど小さな見込み角度を、左へ行くほど大きな見込み角度を示す。この図の偏光の強度は、黒体放射であれば波長に依らず同じ値を持つように定義される。黒丸が波長2ミリのBICEP2のデータで、インフレーション起源の重力波から予測される空間分布(破線)と良く一致している(実線は重力レンズ効果から予測される空間分布)。星印は波長2ミリのBICEP1のデータを用いた測定で、誤差は大きいものの、黒丸と良く一致している。バツ印は波長3ミリのBICEP1のデータを用いた測定であるが、誤差が大きすぎて、波長2ミリと3ミリのデータが黒体放射と一致するか結論できない。(出典:BICEP2)

 従って、BICEP2チームは、クリアすべき2つの課題のうち、1つを文句なしにクリアし、もう1つを2シグマ程度でクリアした時点で、「インフレーション起源の重力波を発見した」と報告するに至ったのである。これが正しいかそうでないか、現時点では科学的に判断できないので、彼らが行った大々的なプレスリリースはギャンブルである。正しいか、そうでないのか。これから行われる異なる波長での測定が全てを決定する事になる。

 BICEP2の結果を「インフレーション起源の重力波を発見したのではない」とする強い証拠はない。しかし、「インフレーション起源の重力波を発見した」とする強い証拠がないのも事実である。発見が本当になされたのであれば、宇宙創成と万物の起源を解明する、宇宙論今世紀最大の発見である事は間違いない。

宇宙は無数にあるのか? その6

 マルチバースの存在を予言するのはインフレーション理論だけではありません。宇宙が「この宇宙」だけではないことを示す理論は、宇宙論とは別の分野からも出ています。素粒子論の最先端である「超弦理論」がそれです(「超ひも理論」と呼ばれることもあります)。「自然界の成り立ち」を解明しようとすると、素粒子論と宇宙論がともに深く関わるのは当然です。

 素粒子物理学における現時点での到達点が、ヒッグス粒子の発見によって完成した「標準模型」という理論体系です。相対性理論がほぼアインシュタイン一人の手によって作り上げられたのに対して、この標準模型は世界中の多くの物理学者がさまざまな理論的アイデアを出し、多くの実験によってそれを裏づけながら築き上げられました

 その標準模型では、この自然界には一七種類の素粒子が存在することがわかっています。陽子や中性子などのバリオンを構成するクォークが六種類、レプトンと呼ばれる電子やニュートリノの仲間が六種類、電磁気力、強い力、弱い力を伝えるボソンが四種類、そこに「標準模型の最後のピース」だったヒッグス粒子を加えて一七種類です。

 では、ヒッグス粒子の発見でこの標準模型が完成したことで、「自然界の成り立ちが完全にわかった」といえるのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。まず、ここに「重力」が含まれていないことはすぐにおわかりでしょう。力を伝える素粒子が四種類あるので、それが「四つの力」に対応していると思う人もいるかもしれませんが、そこに重力を伝える「重力子」は入っていません。

 標準模型に含まれる四種類のボゾンは、電磁気力を伝える光子、強い力を伝えるグルーオン、弱い力を伝えるWボゾンとZボゾンの四つです。重力子は、理論的に存在が予言されているだけで、まだ発見はされていません。そもそも標準模型は、重力を除く「三つの力」の働きを解明するのが主目的だったのです。

 しかし、物理学の究極の目的は「四つの力」を統一して同じ理論で説明することですから、その点だけ見ても、標準理論が最終的な答えではないのは明らかでしょう。電磁気力と弱い力はワインバーグ=サラム理論で統一されましたが、そこに強い力を合わせた「大統一理論」もまだ完成していません。

 さらに、それが「物質の根源」だというには、素粒子の種類が多すぎます。たとえば、かつて物質の根源(=素粒子)だと考えられていた「原子」は、元素の種類があまりにも多いことから、「より根源的な素粒子があるはずだ」と考えられるようになりました。それと同様、一七種類の素粒子にも「もっと深い根っこがあるに違いない」と思われているのです。

 また、標準理論には暗黒物質も含まれていません。原子でできた物質の五倍もある物質を脇に置いているのですから、自然界の成り立ちがすべてわかったなどといえるわけがないのです。

 では、標準模型の奥底にはどんな「根っこ」が隠れているのか。それを解明する理論としてもっとも有望視されているのが、超弦理論です。それが解明されれば、暗黒物質も同じ枠組みの中で説明できるでしょう。さらにいえば、超弦理論は重力を加えた「四つの力」を統一する可能性をも秘めています。だからこそ、素粒子物理学の「最先端」にあるといえるわけです。

 超弦理論では、これまで「点」だと考えられていた素粒子が、より根源的には一次元の「弦」でできていると考えます。標準模型に含まれる一七種類の素粒子は質量や電荷やスピン(角運動量)などそれぞれ固有のパラメータを持っていますが、こちらは輪ゴムのように「閉じた弦」と両端のある「開いた弦」の二種類です。

 ただし、それはさまざまなパターンで振動します。ちょうどバイオリンの弦が振動の仕方によって音程や音色を変えるのと同じように、「弦」も振動によって姿が変わる。同じ弦が、電子になったり光子になったりクォークになったりするわけです。

 このアイデアを基本とした理論は、もともと「弦理論」と呼ばれていました。それが「超弦理論」になったのは、「超対称」という対称を含むように拡張されたからです。そうすると、従来の標準模型には含まれない「超対称性粒子」が存在するようになります。超対称性粒子とは、標準模型の素粒子すべてに存在するパートナーのような素粒子のことです。それが存在すれば、素粒子の種類は倍増することになります。

 現在の標準模型では、電子やクォークなど物質を構成する素粒子(フェルミオンといいます)と、力を伝える光子やグルーオンなどのボゾンを別々の理論で説明しています。しかし、もし理論的な予言どおりに超対称性粒子が存在すると、その両者を理論的に区別せずに扱えるようになる。どちらも同じ「弦」という根っこによって、理解できるようになるのです。

 さて、超弦理論の考える「弦」には、私たちの常識を超える性質があります。私たちは縦・横・高さで位置の決まる三次元空間で暮らしていると思っていますが、弦はそうではありません。九次元もしくは一〇次元の空間に存在すると考えられています。それが物質の根源なのですから、私たちの住む世界にはそれだけ多くの次元があるということです。

 これは一体、どういうことでしょうか。次元が一つ多い四次元空間でさえ、私たちにはそんな方向がどこにあるのかわかりません。ところが超弦理論は、そんな余剰次元が六つもあるというのです。しかし、私たちはその余剰次元を実感することができません。

 この超弦理論からは、十数年前に「膜宇宙(ブレーン宇宙)」という考え方が登場しました。その理論によれば、私たちの宇宙は三次元の「膜」のようなもので、それが九次元か一〇次元まである空間に存在しています。

 膜宇宙論では、電子やクォークや光子などの素粒子は「開いた弦」であり、その端が三次元の膜にくっついていると考えます。位置を固定されているわけではないので、三次元空間の中ではすべるように移動することができますが、余剰次元の方向には出ていくことができません。ただし、その中に一つだけ例外があります。それは、重力を伝える重力子です。

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図:膜宇宙のイメージ

 この重力子は「閉じた弦」になっており、端が三次元の膜にくっついていないので、図のように余剰次元とのあいだで出入りすることができます。だとすれば、重力がほかの「三つの力」と比べて桁外れに弱いことも説明がつくでしょう。電磁気力、強い力、弱い力を伝える素粒子は三次元の膜に閉じ込められているのに対して、重力は余剰次元のほうにも漏れ出します。

 このように重力はもともと高い次元での力ですが、三次元の膜宇宙ではアインシュタインの重力場の式で、ほぼ記述されることを京都大学の白水徹也准教授らが示しました。ほぼというのは、膜宇宙での重力の方程式には、アインシュタインの重力場の式に「補正項」が付け加わっているからです。この補正項は小さな値なので、普通は、膜宇宙でも、実質アインシュタインの重力場の式を用いて構いません。ただし、宇宙のきわめて初期を考えると違いが出てきます。そして、もし、その違いが観測でわかるなら、私たちの住んでいる宇宙が膜宇宙である証拠となるかもしれません。

 では、私たちが住む膜宇宙の「外側」は一体どのような空間になっているのでしょうか。それを数学的に示したのが、「カラビ=ヤオ空間」と呼ばれる複雑な構造です。数式で表現する以外に説明しようのない空間ですが、このカラビ=ヤオ空間につながっている膜宇宙は私たちの三次元宇宙だけではありません。その内部空間のほかのところにも、別の膜宇宙がつながっていると考えられているのです。

 アメリカの素粒子研究者レオナルド・サスキンドによれば、カラビ=ヤオ空間につながる複数の膜宇宙の中には、私たちの膜宇宙と成り立ちの異なるものがたくさん存在します。電磁気力や素粒子の質量などの物理パラメータが違うだけではありません。次元も三つとはかぎらないので、「四次元膜宇宙」や「五次元膜宇宙」なども数学的には存在が可能だと言います。

 しかも、その多様な宇宙の可能性は、一〇の二〇〇乗もあるというのですから、驚かざるを得ません。それが、超弦理論から予想される「マルチバース」なのです。

 超弦理論でのマルチバースは、互いの宇宙がまったく独立で因果関係も持てない膜宇宙から構成されているわけではありません。重力は膜宇宙から漏れ出します。つまり重力の波、重力波は隣の膜宇宙に届くのです。もし隣の膜宇宙にも知的生命体が存在するなら重力波通信で、互いの宇宙を知らせ合うこともできるかもしれません。

宇宙は無数にあるのか? その5

 第二のインフレーション=宇宙の加速膨張が、ビッグバンを起こした「第一のインフレーション」と同じ現象なのかどうかは、まだわかりません。膨張してもエネルギーが薄まらないことから、そこに何らかの意味で真空のエネルギーが関わっていることは間違いないと考えられますが、その量が理論的な計算より124桁も小さいことはすでにお話ししたとおりです。この謎が解けなければ、ダークエネルギーの正体もわかりません。

 スティーブン・ワインバーグは、この謎を「人間原理」で説明しようとしました。人間原理は1960年代にロバート・ディッケが、さらに1970年代にはブランドン・カーターが主張しました。

 ディッケとカーターの人間原理は、「ユニバース=一つの宇宙」を前提にしたものでした。宇宙は人間という知的生命体によって観測されているのだから、人間を生むのに都合のよい条件になっているのが当然であるということです。もしこの宇宙が人間を生まない条件で作られていれば、誰も宇宙を観測しないので、宇宙の初期条件や物理パラメータが問題になることもありません。要するに、自らを観測する存在が生まれるように宇宙ができているのは、奇跡のような偶然にすぎないということです。

 しかし、ワインバーグの人間原理はその二人と中身が少し違います。ワインバーグは、1989年、真空のエネルギーについて次のような考え方を発表しました。これは、宇宙に残った真空のエネルギーが小さすぎる問題や、ダークエネルギーの偶然性問題に答える一つの仮説にもなっています。
「宇宙は無数に存在し、それぞれが異なった真空のエネルギー密度を持っている。その中でも、知的生命体が生まれる宇宙のみ認識される。現在の値より大きな値を持つ宇宙では天体の形成が進まず、知的生命体も生まれない。認識される宇宙は今観測されている程度の宇宙のみである」
ワインバーグが提示したのは、このような考え方でした。

 ここで「宇宙は無数に存在」すると言っているのは、私たちの住む宇宙が無限に広がっているという意味ではありません。「この宇宙」のほかにも、無数の宇宙が存在するという意味です。そして、それぞれの宇宙にはそれぞれ真空のエネルギー密度が決まっており、「どの宇宙も同じ」ではない。その無数の宇宙の中には天体の形成が進む宇宙もあり、そこでは知的生命体が生まれる。したがって、知的生命体に「観測される宇宙」が、その知的生命体を生むのに都合よく見えるのは当たり前です。

 ただし、このような考え方はそれ以前からありました。真空のエネルギー以外にも、わずかに数値が違うだけで「人間の生まれない宇宙」ができあがる物理定数はいくつもあり、それは基本法則から導くことができません。偶然、人間が生まれるように微調整されているとしか思えないのです。しかしそれも、この宇宙が無数にある宇宙の一つにすぎず、無数の宇宙はそれぞれ物理定数が異なると考えれば説明はつきます。

 ワインバーグの主張した人間原理は、「宇宙は無数に存在する」と語っているとおり、彼は「ユニバース」を前提にしてはいません。「ユニ=単一の」宇宙ではなく、「マルチ=多数の」宇宙を前提にしているのです。

 さまざまな条件で作られた宇宙が無数に存在するならば、その中に一つぐらい、人間のような知的生命体を生む宇宙があっても不思議ではありません。その点で、ワインバーグの人間原理は誰にでもすんなりと飲み込みやすい中身になっているのです。

 思いがけずマルチバースを予言したインフレーション理論とはいえ、話はそれで終わりではありません。それはそうでしょう。なにしろ私たちに観測できるのは私たちの宇宙だけです(その宇宙にも「地平線」の向こう側に観測できない領域があります)から、「ほかにもたくさん宇宙がある」と言われてもにわかには信じられません。

 本当に、私たちの「この宇宙」以外にも無数の宇宙が存在するのか。その「マルチバース」が存在するとすれば、それはどこでどのように広がっているのか。それを明らかにしなければ、ワインバーグの話にも説得力を感じられないのです。

 宇宙は「ユニ」なのか「マルチ」なのかを観測によってたしかめることはできません。もし私たちの知っている宇宙とは様子の異なる「宇宙」が観測によって発見されたとしたら、それは決して「別の宇宙」ではなく、「この宇宙」の中にあるからです。したがって観測という手段では、「ユニバース」という結論しか出ないでしょう。

 しかし理論的な研究は話が別です。理論物理学は観測のできていない宇宙の真実を明らかにしてきました。たとえばビッグバンやヒッグス粒子は、観測や実験によってその事実が明らかになる前に、理論的に予言されていたものです。言うまでもなく、インフレーション理論もそんな仕事の一つにほかなりません。

 インフレーション理論は、私たちが暮らす「この宇宙」の謎を解明する理論でした。とくに前回のブログで「観測できる範囲の宇宙は平坦になっている」として述べていた「平坦性問題」に関しては、この理論によって、人間原理に頼ることなく理解することが可能になったのです。

 そんな理論が「ほかの宇宙」の存在を予言すると言われると、何となく違和感を抱く人が多いとは思います。しかし、インフレーション理論を突き詰めていくと宇宙がたくさんできてしまう「宇宙の多重発生」という結論に達します。
 
 インフレーションは、なぜ宇宙を「増やす」のでしょうか。そこでまず重要なのは、インフレーションが宇宙の全域で必ずしも均一には起きないということです。真空の相転移は、宇宙全体の中で、ある領域だけがより速く指数関数的に急膨張をすることもある。そう考えた場合、実に奇妙な現象が起こることにないます。

 たとえば、ある小さな領域の周囲で先にインフレーションが起きたとしましょう。これからインフレーションを起こす領域をA、その周囲をBとします。さて、Aを取り囲むBの領域はインフレーションを終えて「火の玉」になりました。そこでは、すでに真空のエネルギーが消えて熱エネルギーに変換しています。

 では、そのBという領域からAを観察すると、どう見えるのでしょうか。周囲からはAの領域が光速で収縮しているように見えます。もちろんAの領域がインフレーションを起こさないなら、それで問題はありません。しかし実際には、その領域も周囲のBから少し遅れてインフレーションを起こしています。周囲からは収縮して消えていくように見えるのに、急膨張している。外側は縮んでいて、もう周囲に広がるスペースはないはずなのに、中の体積は倍々ゲームで増えているのですから、実に矛盾したパラドックスです。

 この矛盾を説明するためにたどり着いた結論が「子宇宙」の発生です。先にインフレーションを終えたBの領域が「親」だとすれば、収縮しながら広がっている不思議なAの領域は「子」。まさに親から子が生まれるように、宇宙が次々と増殖すると考えると、このパラドックスが解消するのです。

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図:宇宙の多重発生のイメージ

 ここでは、先ほどのAを「偽真空」、Bを「真真空」と呼びましょう。インフレーションを起こして大きく膨張した真真空は、狭い部屋の中で大きく膨らんだ風船のようなイメージです。その風船がつながった空間が、「私たちの宇宙」だと思ってください。真真空に取り囲まれた偽真空は、風船に押し潰されるようにして、表面積がゼロに近づいていきます。「私たちの宇宙」から見ると、そのように見えるのです。

 ところがその偽真空も実はインフレーションを起こしているので、表面積は縮んでいるのに、体積はどんどん増えている。この奇妙な現象は、偽真空が「私たちの宇宙」とは別の宇宙になると考えれば説明がつきます。

 私たちの宇宙が「親宇宙」だとすれば、偽真空のほうは「子宇宙」ということになるでしょう。この親宇宙と子宇宙は、「ワームホール」と呼ばれる虫食い穴のような小さな空間でつながっています。親宇宙からは、このワームホールがブラックホールとして観測されるのですが、実はその向こうで偽真空が急膨張をしているのです。

 さらに、その子宇宙の中でも「真真空」と「偽真空」が生まれ、ワームホールができるでしょう。その向こうには孫宇宙が生まれ、その中でも「真真空」と「偽真空」が……という具合に、宇宙が無数に生まれます。そして、それぞれの宇宙をつないでいたワームホールはいずれ引きちぎれてしまいます。すると、あたかも母と子のヘソの緒が切れたように、お互いに観測することのできない独立した宇宙がたくさん存在することになるのです。

 今は仮に最初の親宇宙を「私たちの宇宙」としましたが、現実に私たちが住んでいる宇宙が「子宇宙」なのか「孫宇宙」なのか「ひ孫宇宙」なのかは、もちろんわかりません。どれなのかはわからないけれど、「この宇宙」はそうやって誕生した無数の宇宙の一つにすぎないのです。それが、インフレーション理論がもたらした結論なのです。

 佐藤やグースが1982年に発表した後、今日にいたるまで、インフレーション理論にはさまざまなバリエーションが生まれました。マルチバースが生まれる仕組みについても、さまざまな解釈があります。
 
たとえば、アレキサンダー・ビレンケン(は、「ポケット・ユニバース」という宇宙モデルを提唱しました。このモデルには、「ワームホール」が登場しません。そこでは、「真真空」と呼んだ部分が泡のようにあちこちに生じます。その泡同士が十分に離れていれば、合体することなく、それぞれ別々に膨張を続けるでしょう。「親」も「子」もなく、最初から独立した「ポケット・ユニバース」として、多くの宇宙がインフレーションによって生まれるのです。

 それ以外にも、インフレーションによって宇宙が多重発生する仕組みについては、いろいろな見解があり、たしかなことはわかっていません。しかしそれらの見解は、少なくとも宇宙が「ユニ」ではなく「マルチ」であることに関しては一致しています。「マルチバース」という考え方自体は、決して突飛なものではなくなっているのです。

宇宙は無数にあるのか? その4

 話をインフレーション理論に戻しましょう。この理論は宇宙がビッグバンを起こした理由を説明しました。真空の相転移による「倍々ゲーム」の急膨張が終わったところで放出された膨大なエネルギーによって、宇宙は「火の玉」になったのです。

 しかし、インフレーション理論が解いた宇宙の謎はそれだけではありません。宇宙が完全に均質な空間ではなく、星や銀河といった構造の「タネ」になるデコボコが生まれた理由を明らかにしたのも、この理論です。

 それ以前のビッグバン理論でも、宇宙がまだごく小さかったときに密度の濃淡(ムラ)があり、その濃い部分を中心にガスが固まることで星や銀河などの構造ができたと考えられてはいました。そのムラのことを「密度ゆらぎ」といいます。

 しかしガモフらの理論では、宇宙全体の構造を決めるほど大きな密度ゆらぎができる理由がわかりませんでした。全体の構造を作るには「事象の地平線」を超える大きなスケールの密度ゆらぎが必要ですが、ビッグバン理論では小さなゆらぎしかできないのです。 初期宇宙はこの地平線距離が短く、空間全体が因果関係を持つことができませんでした。全体の構造を作るほど大きな密度ゆらぎを作れないのも、そのためです。

 物質密度のムラを「山」だと思えば、イメージはわかるでしょう。平らなところに山を作るには、どこかから物質を持ってこなければいけません。しかし、宇宙最高速の光すら連絡が取れない場所から何かを持ってくることは不可能です。だから、地平線の手前までの小さな山しか作ることができないのです。この密度ゆらぎの問題は、別の問題とも表裏一体でした。それは、「一様性問題」と呼ばれる謎です。

 ビッグバンの「化石」であるCMBを調べてみると、宇宙全体がほぼ一様の構造になっていることがわかりました。たとえば私たちの天の川銀河から1〇〇億光年離れた銀河と、それとは反対方向に1〇〇億光年離れた銀河は、旧来のビッグバン理論では宇宙の始まりから現在にいたるまで、一度たりとも因果関係を持ったことがありません。お互いに、「地平線」の向こう側にいるからです。そんな領域が同じような構造を持っているのは、実に不思議なことでした。インフレーション理論では、これらは宇宙の初め頃に因果関係があったのです。

 インフレーション理論は、この「構造の起源」と「一様性問題」という表裏一体の謎に答えることができました。まず「密度ゆらぎ」の問題は、微小なゆらぎが急速な膨張によって一気に大きく引き伸ばされたと考えれば説明がつきます。つまり現在の私たちが観測できる宇宙は、「地平線」の内側にあった領域が大きく拡大されたものなのです。

 そうだとすれば、観測できる宇宙が「一様」になっているのも当然でしょう。インフレーションの前に「地平線」の内側にあった領域は、因果関係があるので、物質やエネルギーを移動して均一な空間にすることができます。その領域が一気に拡大して私たちの観測している宇宙になったのならば、全体が一様になっているのは不思議でも何でもありません。

 ただし、インフレーションの前に「地平線」の向こうにあった領域がどうなっているかは(観測できないので)不明です。その領域は、私たちが観測している宇宙とはかなり様子が違うでしょう。CMBも一様ではないと考えられます。

 初期宇宙の曲率が大きく正か負の値を取っていたとしても、その一部がインフレーションによって巨大に引き伸ばされれば、そこは平坦に見えます。「地平線」の外側まで観測できれば、(そこが一様ではないのと同じように)大きく曲がっているのかもしれませんが、そこは私たちには観測することができません。だから、観測できる範囲の宇宙は平坦になっているのです。

 宇宙初期に指数関数的な急膨張が起きたとするインフレーション理論は、ビッグバン、密度のゆらぎ、一様性問題等、宇宙をめぐるさまざまな謎を説明しました。では、なぜ、そのような「倍々ゲーム」の膨張ができたのでしょうか。

 本来、エネルギーは空間が広がれば、その分だけ密度が薄まります。それは、物質の密度が薄まるのと何ら変わりありません。エネルギーは質量と同じ(E=mc^2)ですから、どちらも体積が増えれば密度は下がるのです。したがって、空間の体積が二倍になれば、エネルギーの密度は半分になるはずですが、それで「倍々ゲーム」の指数関数的膨張が可能だとは思えません。エネルギー密度が低下すれば、空間を押し広げる力が弱まるからです。

 しかし不思議なことに、真空のエネルギーにはその常識が当てはまりません。真空のエネルギーは体積が増えても決して薄まることはなく、逆に増えていくのです。たとえば宇宙の体積が二倍になれば真空のエネルギーも二倍、体積が1〇〇億倍になれば真空のエネルギーも1〇〇億倍になります。

 「それではエネルギー保存の法則を満たしていないではないか」

 そう思って首をひねる人も多いでしょう。しかし、それが真空のエネルギーの性質であり、だからこそ指数関数的な急膨張が可能になりました。まるで、魔法のような話です。納得いかないのも無理はありません。でもそれは、このように考えれば理解できるでしょう。インフレーションを「落下現象」だとイメージしてください。

 たとえば、太陽のまわりに小さな石ころを置いたとします。石は太陽の重力に引っ張られて(正確にはお互いの重力で引っ張り合って)徐々に速度を増しながら落ちてゆき、最後はすさまじいエネルギーを持って太陽に衝突するでしょう。では、そのエネルギーはどこから来たのでしょうか。

 宇宙はアインシュタイン方程式(つまり重力)によって、小石が落下するように膨張します。ポテンシャルエネルギーがどんどん負の大きな値となり、その分、真空のエネルギーが増してゆく。その真空のエネルギーが、相転移のときに熱エネルギーに転換され、ビッグバンの「火の玉」を生み出したのです。また、真空のエネルギーが増してゆく様子は、ゴムシートを引っ張って広げることをイメージするとわかりやすいかもしれません。シートを引き伸ばせば引き伸ばすほど、ゴムの中の収縮しようとするエネルギーが増加します。

 これと同様、宇宙が重力に引っ張られて膨張すればするほど、その中の真空のエネルギーは収縮しようとして増加します。だから、空間が二倍に膨張すれば真空のエネルギーも二倍、1〇〇億倍になれば1〇〇億倍に増えるわけです。グースは、そんな真空のエネルギーの増大のことを「フリーランチ(タダ飯)」と呼びました。

 放っておけばいくらでもエネルギーが増えるのですから、そう呼びたくなる気持ちもわからなくはありません。宇宙の「始まり」がどのようなものだったかわからないので、真空のエネルギーが本当に「フリーランチ」なのかどうかもわかりませんが、それが「無」から「有」を生み出す「魔法」のようなメカニズムだったことはたしかでしょう。

 そして現在の宇宙には、再び「魔法」がかかっています。宇宙を加速膨張させているダークエネルギーも、やはり薄まることがありません。宇宙が広がれば広がるほど、ダークエネルギーも増えていくのです。その膨張速度はインフレーションほどではありませんが、宇宙というゴムシートが六〇億年ほど前から引っ張られ始めたのは間違いない。だから佐藤はこれを「第二のインフレーション」と呼んでいます。

 宇宙の大構造、銀河団などの「まとまり具合」を表す「Q」の値(10^-5)は、重力の働きでだんだん成長するので「Q」の値も大きくなっていきます。宇宙が始まった頃は、宇宙はきわめて一様で物質密度の濃淡の度合いはほとんどなかったことになりますが、しかしこの濃淡、密度ゆらぎがなければ、私たちの宇宙には銀河団をはじめとする天体は生まれません。

 この密度ゆらぎを作るのはインフレーションの大きな役割です。当然現在の「Q」の値をインフレーション理論は説明しなければなりません。実際、インフレーション理論のなかの数値を調節してやるとうまく現在の「Q」に合わせることもできます。構造形成が進まずに星や銀河が生まれないとか、反対に構造形成が行き過ぎてブラックホールだらけになることを避けて、ちょうど現在観測されているように銀河団など天体がうまく形成されるように理論を作ることができます。

 実はインフレーション理論は私やグース以後、雨後の筍のように、ものすごい数の改良モデルが生まれています。ニューインフレーション、ハイブリッドインフレーション、カオティックインフレーション、ブレーンインフレーション……という具合に数十はあるでしょうか。インフレーション理論は宇宙初期のモデルの標準モデルとなってはいるものの、すべての基本的力を統一する究極の統一理論が未完であり、モデルの細かな点は不明なままなのです。したがって、今は「数値を調節してうまく観測に合うようにしている」段階なのです。


 今までのブログ4回分では「宇宙はユニバース(単一宇宙)ではなくマルチバース(多宇宙)だった!」という本題に入れずに来てしまいました。今月発表された「原始の重力波」の観測結果がいかに素晴らしい出来事であったかを思い知らされました。次回は、ブログ題「宇宙は無数にあるのか?」 にそって マルチバースを述べたいと思います。

宇宙は無数にあるのか? その3

 宇宙インフレーション理論についてブログを書き進めているのですが、今回の観測結果がもたらす影響は大変な大きかったようです。講談社ブルーバックスから出版された『超弦理論入門』の著者である大栗博士は、この発表について自らのブログで次のように述べられています。

 「これを聞いて、私はとてもワクワクした。宇宙の誕生直後の様子がわかるようになっただけでも素晴らしいが、この発見は、自然界の基本法則の探究という物理学の大きなテーマを、次のステージに進めるものでもある。また、私の研究対象である超弦理論とも深いかかわりがある。」
 今回の発見には、一昨年の夏に発表になったヒッグス粒子の発見と共通する部分がある。ヒッグス粒子は、素粒子の間に働く力の性質を説明し、素粒子の質量の起源を明らかにするために、今から50年前に理論物理学者が紙と鉛筆で計算して予言したものだった。そして、一昨年のヒッグス粒子の発見と比較して、
 「理論的予言が長年たって検証されたという点では共通する二つだが、科学史においては、今回の発見が正しければ、ヒッグス粒子の発見よりももっと重大な事件になると思う。いずれも偉大な業績であり、その重要度を比較するなどもってのほかとお叱りを受けるかもしれないが、そのように思う。」
 「今回の発表が正しければ、つい最近まで検証不可能ではないかといわれていたインフレーション理論。その最も重要な予言が確認されたことになります。これは、理論物理学者として大いに勇気付けられることです。BICEP2の発表で幕を開けた初期宇宙や量子重力の効果の実験的研究は、これから大きく発展しそうです。」
 「この観測で検出された偏光が初期宇宙のインフレーションを起源としたものであると確信するには、まだ追試が必要なようです。」

 大栗博士が述べられているように、これらすべての発言に対して、今後の物理学に対する希望が含まれているようです。


 インフレーションやダークエネルギーの理解に欠かせない「真空のエネルギー」という概念は、もともと宇宙論から出たものではありません。これは、素粒子物理学における「力の統一理論」に関わるものです。

 力の統一理論とは、自然界に存在する「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」という四つの力を統一する理論のことで、日常的に人間が体験できる重力と電磁気力に対して、後ろの二つはミクロの世界だけで働く力なのです。「強い力」は原子核の中で陽子と中性子をくっつける働きをする力、「弱い力」は原子核の崩壊を引き起こす力です。

 この四つの力の働きは、それぞれ別々の理論によって解明されてきました。しかし物理学者は、できるだけシンプルな原理や法則で自然界を説明したいと考えますし、それができるはずだという信念を持っています。下の図は統一理論の予想する「力の系統図」をエネルギーレベルで描いた図です。
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 たとえば、今は一つの力として扱われている電磁気力は、かつて「電気力」と「磁気力」という別々の力だと考えられていました。それを理論的に統一したのが、一九世紀の物理学者マクスウェルです。それと同じように、四つの力を一つに統一したい。それが物理学における大きなテーマなのです。それは決して簡単なことではありません。

 たとえばアインシュタインは晩年に電磁気力と重力の統一理論(つまりマクスウェル理論と相対性理論の統一)に挑戦しましたが、それを果たすことはできませんでした。現在も、それは実現していません。

 しかし1967年には、「電磁気力」と「弱い力」を統一する理論が誕生しました。アメリカのスティーブン・ワインバーグとパキスタンのアブドゥス・サラムがほぼ同じ時期に独立に完成させたため、「ワインバーグ=サラム理論」と呼ばれています。
 
 この理論で重要な役割を果たすのが、真空のエネルギーでした。そこにエネルギーがあるからこそ、真空は(水が氷になるような)相転移を起こします。ワインバーグとサラムは、その真空の相転移によって、もともと同じ力だったものが電磁気力と弱い力に分かれたと考えました。真空が高いエネルギー状態にあるときは一致する(同じ方程式で扱える)力が、相転移によって低いエネルギー状態になると別々の働き方をするのです。

 ワインバーグ=サラムの統一理論は、電磁気力と弱い力がエネルギーの高い状態で一致し、エネルギーが低い状態では別々の力になることを示しています。それならば、宇宙初期の高エネルギー状態では実際に二つの力が一致しており、真空の相転移によってエネルギーが下がったときに二つに分かれたのではないのか。

 もし、そうだとすれば、「電弱力」を電磁気力と弱い力に分けた相転移の前にも、もっと高いエネルギー状態のときに相転移が起きた可能性があるはずです。それまでは「強い力」と「電弱力」が一致していたのが、相転移によって二つに分かれた。さらにその前は、今の自然界にある「四つの力」がすべて一致していたのが、相転移によって「重力」とそれ以外の力に分かれたと考えることができるのです。

 佐藤勝彦博士は次のようにいっています。
『私が初期宇宙の指数関数的膨張(インフレーション)という理論にたどり着けたのは、このワインバーグ=サラム理論を素粒子物理学の専門家から教わったことがきっかけでした。教えてくれたのは、後にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英博士です。その理論を勉強した私は、「真空の相転移」というアイデアを宇宙論に活かそうとしました。ワインバーグとサラムは「高いエネルギー状態では二つの力が一致する」ことを理論的に示しましたが、私はそれが宇宙初期に現実に起きた(真空の相転移によって二つの力が分かれた)と考えた。その前提でアインシュタイン方程式を計算すると、真空のエネルギーが空間を急速に押し広げるという結論が出たのです。』

 宇宙が始まってから、徐々にエネルギーが低下するにしたがって真空が相転移を起こし、まずは重力、次に強い力が枝分かれし、最後の相転移で弱い力と電磁気力が分かれたというシナリオです。

 では、三段階に分かれて起きた真空の相転移のうち、どこでインフレーションが起きたのでしょうか。

 それを考える上で重要なのは、「バリオン数」という概念です。バリオンとは、陽子や中性子のような物質を構成する粒子のことだと思ってもらえばいいでしょう。かつて陽子や中性子は、それ以上は分割できない素粒子だと考えられていました。そこでギリシヤ語で「重い」を意味する「barys」からつけられたのが、バリオンという名前です。しかしその後、バリオンは素粒子ではなく、三つのクォークからなる粒子だとわかりました。

 宇宙でバリオンが作られたのは、加速器ではまだ到達できていない高いエネルギー状態のときだと考えられます。つまり、強い力が枝分かれした頃にバリオンが生まれた。もしそうだとすれば、インフレーションはバリオン生成の前でなければいけませんから、強い力が分かれた二番目の相転移のときに起きたはずです。

 ところで、二〇一二年にCERNの加速器でヒッグス粒子が検出されたことは、インフレーション理論にとっても朗報でした。ヒッグス粒子は、真空の相転移と深く関わるものだからです。

 そもそもワインバーグ=サラム理論は、「ヒッグス機構」に関する理論を前提にしたものでした(ヒッグス粒子はヒッグス機構から生まれると予言されたもので、この粒子が存在したことでヒッグス機構の正しさが裏づけられました)。さらに、ヒッグス機構は二〇〇八年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎博士の「自発的対称性の破れ」を下敷きにしています。

 そして、ワインバーグ=サラム理論のいう真空の相転移とは、「ヒッグス場の自発的対称性の破れ」のことにほかなりません。要するに、ヒッグス粒子の発見は「真空の相転移」という概念を裏づけるものだったということです。

 南部博士の「自発的対称性の破れ」は、物理学における真空の概念を大きく変えるものでした。「対称性の破れ」とは、どちらを向いても同じだったものが「方向性」を持つということです。南部理論は、真空でも対称性が破れることを明らかにしました。

 もし真空が「何もないからっぽの状態」であれば、そんなことは起こり得ません。何もないのですから、方向性など決めようがないでしょう。しかし実際には真空もエネルギーを持つ物理的な実体であり、そのエネルギー状態が変わることで対称性が破れます。

 水の温度が下がると氷になるのと同じように、エネルギーが低くなれば真空が相転移を起こすのです。液体の水は分子がバラバラに散らばっているので「対称性」がありますが、氷になると分子の向きが揃って「方向性」が生じます。つまり、相転移によって対称性が自発的に破れてしまう。それと同様、真空もエネルギーが下がって相転移を起こすことで、対称性が破れるのです。

 その真空の相転移を起こすために必要なのが、ヒッグス機構でした。南部理論を素粒子論に応用するには、あるエネルギーを持つ「場」があると考えなければならなかったのです。それがピーター・ヒッグスによって導入された「ヒッグス場」と呼ばれるものです。「場」は、電磁波を伝える「電磁場」のようなものだと思えばいいでしょう。

 では、ヒッグス場が電磁場のようなものだとしたら、発見されたヒッグス粒子は何に相当するのか。あるいは、電磁場における電磁波は、ヒッグス場における何に相当するのでしょうか。実は、ミクロの世界を扱う量子力学では、あらゆる「波」が「粒」の性質を併せ持ち、あらゆる「粒」が「波」の性質を併せ持つと考えます。

 そもそも「量子」とは、「とびとびの値」を意味する概念です。もし光に波の性質しかないのであれば、その強さは連続的に変化するでしょう。ところがミクロのレベルで測定すると、その変化が「とびとびの値」を取っている。ある係数と光の振動数を整数倍した数字にしかならないのです。これは、光に「粒」の性質があるからにほかなりません。その光の粒のことを「光子」といい、いわばこれが電磁波の「最小単位」なのです。

 電磁場に電磁波があるのと同じように、ヒッグス場にも「波」があります。しかしその「波」は「粒」の性質も持っている。つまりヒッグス場における「波」の最小単位が、ヒッグス粒子なのです。だから、ヒッグス粒子が発見されれば、真空の相転移を起こすヒッグス場が存在することの間接証拠になる。

 今回CERNの加速器で検出されたヒッグス粒子は、宇宙初期でいえば「三番目の相転移」を起こしたヒッグス場で発生するものでした。現在の加速器で作ることのできるエネルギー状態は、そこが最大です。

 しかし、ヒッグス場はそのエネルギー状態にだけあるわけではありません。より高いエネルギー状態では、別の値を持つヒッグス場やヒッグス粒子が存在し、真空の相転移を起こすはずです。強い力が枝分かれした二番目の相転移も、今回発見されたものとは異なるレベルのヒッグス場によって起きました。佐藤とグースが考えたインフレーションは、この相転移によるものでした。

 そして、真空の相転移を起こすヒッグスのメカニズムが本当に存在することは今回の発見で明らかになりました。その意味で、これはインフレーション理論の正しさを強く支持しています。

 ヒッグス粒子は、たしかに電子やクォーク(陽子や中性子などを構成する素粒子)などに質量を与えます。ただし、物体の質量がすべてヒッグス粒子に由来するわけではありません。たしかに素粒子の質量はヒッグス粒子が与えていますが、それは陽子や中性子の質量のわずか1%にすぎないのです。

 素粒子は「物質の根源」なので、物質の質量はそれを構成する素粒子の質量の和になると思うでしょう。しかし、実はそうではありません。陽子や中性子の質量の九九%は、強い力のエネルギーによるものです(陽子や中性子を束ねる力のエネルギーが、E=mc^2で質量となっている)。

 だからといって「質量の起源」としてのヒッグス粒子が取るに足らない存在だというわけではありません。素粒子物理学の研究をさらに深める上で、その発見はきわめて重要な意味を持っています。しかし「質量の起源」という面ばかり強調したのでは、この発見の意義が十分に理解されません。宇宙論や宇宙物理学の分野から見れば、この発見は「真空の相転移」という概念を裏づけたことに大きな意義があるのです。

宇宙は無数にあるのか? その2

 「宇宙は“無”の状態から量子重力的効果によって生まれた。この量子宇宙はインフレーションと呼ばれる急膨張をおこし、マクロな宇宙となった。インフレーションが終わるとき、宇宙は激しく熱せられて火の玉宇宙となった。またインフレーション中に存在した量子揺らぎはインフレーションによって引き延ばされ、後に緩やかに成長し銀河団、銀河、星など宇宙の構造になる種となった」

 これは1980年代に、旧来のガモフによるビッグバンモデルの欠陥を補強するために提唱されたインフレーション理論、量子宇宙論によって強化された現代宇宙論のパラダイムである。インフレーション理論は未完ではあるが力の統一理論を宇宙初期に応用することで提唱されたものでした。

 当時、宇宙論の研究はその観測的実証の困難から、どうしても理論的研究が主導する分野でした。無からの創成やインフレーションはそれぞれ宇宙開闢から10^-44秒(プランク時間)とか10^-36秒(大統一理論相転移時刻)に起こったとして提唱されたものであり、そのころに起こった出来事が観測的に実証されることはないと考えるのは当然です。

 しかし、1980年代末から次第に宇宙論の研究は、観測主導の時代に変わっていったのです。もちろん10^-44秒のプランク時間の観測ができるようになったのではなく、現在の宇宙時刻から電磁波で観測できる最も宇宙の初期、宇宙開闢の約38万年後までの観測が爆発的に進むようになったのです。

 宇宙では遠くを観測すれば過去がどんどん見えてくるのです。光や電磁波を使って観測するとき、宇宙誕生から38万年以前の宇宙は高温でプラズマ状態にあり、光はプラズマの電子に散乱されるので、これ以前の初期宇宙は電磁波では写真をとることはできません。

 しかし、透過性の高い粒子や波を使えば、さらに宇宙初期の姿も描き出すことができる。たとえばニュートリノを使えば、宇宙の温度が100億度もある時刻1秒の頃まで見える。ビッグバン宇宙でヘリウムなどの元素が核融合によって形成されるのはもっと温度が下がった、宇宙開闢から3分頃ですが、ニュートリノ望遠鏡ができればこの元素合成の現場を観測できる。アインシュタインの相対性理論の予言する重力波を使えば原理的には、宇宙開闢の瞬間すら見えてくるはずです。

1982年、米国NASAの宇宙背景放射観測衛星COBEによる、宇宙背景放射の揺らぎ、温度の方向によるムラの発見で宇宙が高温で不透明だった時期から透明になった頃の宇宙の姿、開闢から38万年たったころの宇宙の姿を描き出した。そこにはインフレーション理論が予言していた宇宙構造の種、密度揺らぎがクリアに描き出されていたのである。

さらにCOBEの後継機、WMAP衛星が地球からのノイズを避け全天サーベイがしやすい場所、月軌道より遠方のL2ポイントに打ち上げられた。WMAPは2003年に、COBEのほぼ30倍の細かさで地図を作り上げ、そのデータ解析によりさらにインフレーションを裏付けた。このデータ解析の中で、宇宙の年齢が137億年であることを示し、宇宙の年齢もほぼ決まりました。

 2013年、欧州宇宙機関(ESA)によって打ち上げられたプランク衛星によって宇宙背景放射を偏光観測まで含め高感度・高分解能で観測した結果が発表され、インフレーション理論を裏付けました。それと同時に宇宙の年齢が138億年と変更されています。

 プランク衛星の目指すものは、単純な密度の揺らぎの観測のみではなく、実は些細な偏光観測をおこなうことです。インフレーションは宇宙の構造の種となる密度揺らぎだけではなく、時空のさざ波とも言うべき、重力波も生み出します。

 インフレーション理論が正しいのならば現在の宇宙には、それが引き延ばされ、波長が長い宇宙背景重力波が満ちているはずなのです。宇宙背景重力波があると、宇宙マイクロ波背景放射にはBモードと呼ばれる偏光パターンが現れます。

 プランク衛星はこれを観測でとらえることを目指しているのですが、残念ながら2013年のデータ解析では、Bモードに対して上限値を求めることしかできませんでした。しかし、2014年にはさらに精密なデータ解析の結果が発表されることになっています。

 この様な状況の中で、今年2014年の3月に天文衛星の観測ではなく南極の望遠鏡での観測として、BICEP2望遠鏡の観測結果についての発表がなされ、初期宇宙の時空間の量子的な揺らぎを起源とする原始の重力波の存在を世界で初めて確認され、宇宙が誕生直後に急膨張(インフレーション)した証拠を初めてとらえました。

 BICEP2の観測から、このCMBにBモード偏光が見出されたことにより、インフレーション由来の原始重力波が時空をゆがめることにより生じるとされるBモード偏光パターンのデータの精査から間違いなく原始重力波を起源とするCMBの偏光を確認したのです。

 宇宙が誕生した瞬間、驚くほど強力な重力波が広がっていった事実が最新の研究によって明らかとなる「誕生直後に急膨張した」とする「宇宙インフレーション理論」を裏付ける決定的な証拠が、初めて観測されたことになります。

 Bモード観測の重要性は単にインフレーションを裏付けるというだけではなく、実はインフレーションがいかに起こったかを観測によって明らかにすることです。佐藤やグースによって提唱された原初インフレーション理論はそのままでは天文的観測と矛盾したり、また、その根拠となった大統一理論が統一理論としては実験と矛盾したりすることがわかり、いろいろな改訂版が数多く発案されています。

 また、マイクロ波背景放射を経由してインフレーション起源の重力波を観測するということをしなくても、直接重力波をとらえることができるようなら、より直接的なインフレーションの証拠となり、またインフレーションがいかに起こったかの情報が直接得られるはずです。

 現在日本で、神岡鉱山の地下深くに宇宙からの重力波をとらえようとする大型冷却重力波望遠鏡、KAGRAの建設が進んでいて、これが完成すれば、連星が合体しブラックホールができるときに発生する重力波が観測されると期待されています。

 残念ながら、インフレーション起源の重力波はあまりにも波長が長くKAGRAでは検出できませんが、NASAやESAは人工惑星を3個打ち上げ、その間にレーザの光をやりとりする干渉計によってこの重力波をとらえる計画の検討を進めています。

宇宙は無数にあるのか? その1

 1980年に最初に宇宙インフレーション理論を提唱したマサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者アラン・グースは、「ビッグバンとインフレーションによって誕生した宇宙を、無から有が生じる、ただで何かを得るということで、“究極の無料ランチ”である。そして、マルチバースは、この宇宙で観測されている多くの特異な事柄に、1つの十分に考えられる説明を与える」と述べている。

 また、MITの物理学者マックス・テグマークは、「“混沌とした”インフレーションから生まれたマルチバースにおいて、ビッグバンはほんの始まりにすぎず、そこから数多くの宇宙が誕生し、それらは互いに想像を絶するほどの距離で隔てられている。そして、マルチバースは、おそらくはどこまでも広がっている」とサイエンス誌に書いている。

 それでは、グースと同時期に宇宙インフレーション理論を提唱した佐藤勝彦(自然科学研究機構長)博士は、インフレーションとマルチバースについてどのように考えているのであろうか。

 幸いにも2013年6月に集英社文庫から出版された「宇宙は無数にあるのか」と2013年12月に日経サイエンス社から出版された「宇宙の誕生と終焉」プロローグ記事“宇宙創生から未来へ”の二冊の書籍から拾い出してみることにします。

 二〇世紀前半にハッブルが宇宙の膨張を発見したことで、この世界には「始まり」があることがわかりました。しかし、宇宙がどのように始まったのかは、いまだに謎に包まれています。「宇宙はビッグバンで始まった」と誤解している人もいますが、いきなり「火の玉」が生まれたわけではありません。

 ビッグバンの直前に、インフレーションと呼ばれる急激な膨張が起こりました。これはビッグバンがどのように起きたのかを説明する理論でした。真空の相転移に伴って、膨大な熱エネルギーが放出されたのです。

 したがって、宇宙が膨張しているのは「火の玉から始まったから」ではありません。ビグッバンという大爆発の勢いで現在まで膨張しているかのようなイメージを抱いている人が多いのですが、宇宙はビッグバン以前から膨張を始めていたのです。そもそも、ガモフがビッグバン理論を提唱するまで、宇宙の始まりに「火の玉」が必要だとは思われていませんでした。

 膨張している以上、過去に遡るほど宇宙は小さいので物質の密度は高まりますが、温度は必ずしも高くなくてかまいません。アインシュタイン方程式から「膨張宇宙」のモデルを導き出したフリードマンやルメートルも、初期の小さい宇宙が「熱かった」とは言っていなかったのです。

 ガモフがビッグバン理論を唱えたのも、「小さい宇宙は温度が高かったはずだ」と考えたからではありません。彼は「宇宙初期にあらゆる元索が合成されるにはどうすればよいか」という問題を考えた末に、「火の玉が必要だ」という結論にいたったのです。

 ところが、ビッグバンで作られる元素は宇宙に存在する水素・ヘリウムを主とするごく一部の元素しかあり得ないことがわかりました。にもかかわらず、ビッグバンが起きたことは宇宙マイクロ波背景放射(CME)の発見によっ裏づてけられています。理論の前提は必ずしも正しくはなかったのです。

 物体は温度が高いほど波長の短い光(電磁波)を発するので、もし初期宇宙が超高温の「火の玉」だったのであれば、その空間は波長の短い電磁波で満たされていたでしょう。電磁波の波長は空間が二倍になれば二倍、四倍になれば四倍に引き伸ばされますから、ビッグバンで生まれた電磁波も宇宙が膨張するにつれて波長が長くなります。

 ガモフたちは、それが現在は波長の長いマイクロ波となって、宇宙全体を満たしているはずだと予想しました。これを先述したように「宇宙マイクロ波背景放射」と呼びます。

 そして1964年、アメリカのベル研究所で衛星通信の開発研究をしていたベンジアスとウィルソンが、宇宙のあらゆる方向から飛んでくるマイクロ波を見つけました。当初、二人はそれが何であるか気づかず、ノイズとしか思いませんでした。ところが、連絡を受けたCMBの研究グループが検証してみると、このマイクロ波の波長はガモフたちの予測した数値と一致していたのです。

 この大発見によって、宇宙が「火の玉」から始まったことが裏づけられました。138億年という時間をかけて地球に届くCMBは、いわば「ビッグバンの化石」のようなものなのです。ただし、その光(電波)によって「見える」のは、宇宙誕生の瞬間ではありません。

 宇宙が始まって「火の玉」になったとき、そこで生じた光はまっすぐに飛ぶことができませんでした。というのも、超高温の高エネルギー空間では粒子の運動が活発なので、陽子(水素の原子核)が電子を捕まえることができません。これを「プラズマ(電離)」状態といいます。光は自由に動いている電子にぶつかると散乱してしまうため、プラズマ状態の空間ではまっすぐに進めません。いわば「電子の雲」に閉じ込められた状態になるのです。

 しかし「火の玉」が膨張するにしたがって、空間のエネルギー密度が下がるため、やがて電子は陽子に捕まって水素原子になります。自由に動き回る電子がいなくなると、光はそれに邪魔されることなく直進できる。そうなるまでに、38万年ほどかかりました。

 「電子の雲」が消えて光がまっすぐ進めるようになったので、これを「宇宙の晴れ上がり」と呼びます。光はそのときから宇宙空間をまっすぐに飛び、138億年かけて現在の地球に届きました。それがCMBにほかなりません。つまり私たちはCMBをキャッチすることで、誕生から38万年後の宇宙を見ていることになるわけです。

 そうなると今度は、宇宙の晴れ上がる前の「火の玉」が生まれた理由を考えなければいけません。

 そして、それを急速な膨張の結果として説明したのが、インフレーション理論でした。ガモフのビッグバン理論は、「火の玉」の意味を取り違えていたとはいえ、結果的に「宇宙の始まり」に迫る大きな手がかりを与えてくれたといえるでしょう。

 それ以前の宇宙には水素原子が存在しなかったのですから、当然、星や銀河のような構造物はありません。しかし陽子が電子を捕まえて水素ができると、それまではガスとして漂っていた物質が固まり、星が作られるようになります。
 
 そうなるためには、ガス状に広がった粒子の分布に何らかの濃淡(ムラ)がなければいけません。ガスが均一に広がっていたのでは、お互いの重力が釣り合ってしまうので、固まりはできないでしょう。物質の密度が濃い部分が強い重力で周囲の物質を引き寄せ、それがやがて星になるのです。

 だとすれば、宇宙空間には生まれた瞬間から何らかのデコボコがあったに違いありません。もし宇宙がデコボコのない均質な空間として生まれていたら、星や銀河は作られず、私たち人間も生まれていないのです。

 実は、「インフレーション理論」で、そのデコボコがビッグバン以前に仕込まれていたことを理論的に指摘しています。その理論が正しければ、ビッグバン以前に生じたデコボコはCMBにも反映されます。晴れ上がった宇宙から放たれた光の分布は均一ではなく、ほんのわずかなムラがあるはずなのです。

 1964年にベンジアスとウィルソンがCMBを発見した当時は、まだ観測精度が低かったため、マイクロ波の分布にムラがあることまではわかりませんでした。宇宙の全方向から同じ強さのマイクロ波が届いているようにしか見えなかったのです。

 しかし、2013年3月に、欧州の天文衛星「プランク」の観測による初の宇宙マイクロ波背景放射の全天マップが発表されました。、宇宙誕生からわずか38万年後に放たれた光の波長が伸びて現在マイクロ波として観測され、誕生直後の宇宙に存在したわずかな密度のムラが反映されています。こうしたムラは宇宙誕生直後に起こった宇宙空間の急激な膨張(インフレーション)で大規模に広がり、その後恒星や銀河などの構造が生まれる種となっていると考えられています。

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「プランク」による宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の全天マップ。標準モデルと合致しない温度分布の非対称性(カーブ線)や大規模な低温領域(白い囲み)が見られる(図では着色して強調)。過去の観測でも示唆されていたものが、今回はっきりと確認された。(提供:ESA and the Planck Collaboration)

 今では、この様な観測結果をコンピューター処理することで、物質の濃い部分にガスが集まって最初の星を作り、その星が集まって銀河を形成していくプロセスを見事に再現されています。その研究によれば、この宇宙に存在する銀河は、「蜂の巣構造」になります。

 今後はますます望遠鏡による観測技術が発達し、これまで見えなかった遠い星や銀河が見えるようになるでしょう。宇宙では距離が遠いほど「過去」を見ていることになりますから、これは宇宙の「空間」と「時間」の両方を把握するのに役立ちます。

 しかし科学の世界では、一つの謎が解けると同時に、次の新しい謎が出現します。観測技術の発達によって今まで見えなかったものが見えてくると、今まで見えなかった謎も見えてくるのです。

宇宙初期の重力波の強さ?

 前回のブログ記事は、「大栗博司のブログ」を中心にして、纏めようとしたのですが、さすがに日本を代表する物理学者ですので、理解に苦しむ「数値比」が出現してきます。これについて解説も書き加えておかないとブログ自体の内容が理解不能になってしまいそうです。

 このブログの中に、BICEP2実験の結果「宇宙初期の量子ゆらぎでできた重力波の強さを表す r 比と呼ばれる量が約0.2である」と書いていましたので、r比について書き加えることにします。

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 インフレーション宇宙を検証するCMB偏光の観測は、インフレーション期(宇宙誕生後約10^–38秒の世界)に生成された原始重力波による時空のゆがみは、CMB偏光分布にBモードと呼ばれる特殊なパターンを生成し、その観測は宇宙創生に関する新たな知見を人類にもたらすと期待されてます。

 代表的インフレーションモデルでは、原始重力波の強さに相当するパラメータr(テンソル・スカラー比)に関して、r>0.002という下限が存在し、さらに多くのインフレーションモデルではr>0.01と予言されています。

 今回の観測ではr比が0.2だったので、一般相対論と量子力学を統合するプランク・スケールよりも2桁下です。

 原始重力波の観測に特化する場合、大きな望遠鏡を宇宙空間に持つ必要はなく、宇宙空間における比較的小型の望遠鏡による観測と、今回のように南極の大型望遠鏡による観測の組み合わせで究極の観測が可能になるかも知れません。

 「インフレーション宇宙からの信号の発見」に留まらず「原始重力波の発見」という大発見をも達成出来れば、基礎科学に与える影響は絶大なものとなるでしょう。また、たとえ多くのインフレーション理論の予測と異なり原始重力波が発見されない場合でも、インフレーションのエネルギースケールに上限を得ることができ、究極理論の候補を絞り込むことができるため、宇宙論、素粒子物理学の双方にとって、観測の意義は極めて大きいといえます。


 今回のBICEPチームプロジェクトの観測結果に関連した記事が、3月19日にNational Geographic Newsより「 重力波観測で開く“多宇宙”への扉」として記載されていましたので、このブログに転載します。

「 重力波観測で開く“多宇宙”への扉」
Dan Vergano
National Geographic News March 19, 2014

 ビッグバン後に広がっていった重力波の存在は、我々の暮らす世界が多くの宇宙からなる「マルチバース(多宇宙)」であることを示しているという。

画像データ0001a

 というのも、このほど初めて観測された重力波は、初期宇宙の“インフレーション”がとりわけ強力で、多くのものを生み出す現象だったことを示しているからだ。宇宙インフレーションとは、約138億2000万年前のビッグバン直後、ほんの一瞬の間に、初期宇宙が我々の知る宇宙の何倍ものサイズに指数関数的に膨張したとする理論だ。

「インフレーションが起こればマルチバースが生まれることを、ほとんどのモデルが示している」と、スタンフ ォード大学の物理学者で、宇宙インフレーション理論の提唱者の1人であるアンドレイ・リンデ(Andrei Linde)氏は述べる。南極にあるBICEP2望遠鏡を用いた天体物理学チームによる重力波の初観測は、米国時間3月 17日にハーバード・スミソニアン天体物理学センターにおいて発表され、リンデ氏も会場で発言した。

 BICEP2チームの観測結果が裏付けるモデルでは、宇宙の膨張プロセスはあまりに強力なため、1度では終わらず、ビッグバンが始まると繰り返し、さまざまな形で起こる。

「マルチバースは、この宇宙で観測されている多くの特異な事柄に、1つの十分に考えられる説明を与える」 と、1980年に最初に宇宙インフレーション理論を提唱したマサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者アラン・グース(Alan Guth)氏は述べる。「例えば、生命が存在することなどに」。

◆無料のランチ

 グース氏は、ビッグバンとインフレーションによって誕生した宇宙を、無から有が生じる、ただで何かを得るということで、“究極の無料ランチ”と表現している。

 一方、リンデ氏はそれどころか、宇宙は想像しうる限りの無料ランチを詰め込んだ“バイキング料理”だと考えている。

 すなわち、ビッグバンの後には、我々の知る恒星や惑星に満ちた宇宙から、それよりはるかに多くの次元を有する一方、原子や光子といったありきたりなものが存在しない奇抜な宇宙まで、ありとあらゆる種類の宇宙が誕生したというわけだ。

“混沌とした”インフレーションから生まれたマルチバースにおいて、ビッグバンはほんの始まりにすぎず、そこから数多くの宇宙が(我々の宇宙を含めて)誕生した。それらは互いに想像を絶するほどの距離で隔てられているが、マルチバースは一体どこまで広がっているのか? おそらくはどこまでも広がっていると、MITの物理学 者マックス・テグマーク(Max Tegmark)氏は「Scientific American」誌に書いている。

◆食い違いの謎

「マルチバース理論は好きだが、支持はしない」と話すグース氏だが、それでも、マルチバースが宇宙に関する 多くの説明のつかない事柄を説明できることは認めている。

 例えば、1998年に宇宙の銀河が加速して膨張しているように見えることが発見された。銀河は互いの重力で引き合うため、理論上は膨張は減速するはずだ。2011年にノーベル物理学賞を受けたこの発見は、一般に“ダークエネルギー(暗黒エネルギー)”の存在を示唆するものだと考えられている。ダークエネルギーは宇宙において 重力にさからうエネルギーで、その性質は謎に包まれている。

「我々の計算(したダークエネルギー)と実際の観測結果は、非常に大きく食い違っている」とグース氏は述べる。量子論では、宇宙の真空において素粒子が生まれたり消えたりを繰り返しており、そのことから真空にはエネルギーが与えられているはずだと考えられているが、この真空のエネルギーの理論計算による値は、銀河の観測結果から導き出される値より120桁も大きい。

 しかしマルチバースなら、この食い違いにも説明がつく。インフレーションによって誕生した多種多様な宇宙の中で、我々の住む宇宙はたまたまダークエネルギーが比較的弱い、数少ない宇宙の1つなのかもしれない。

 マルチバースで説明がつく可能性のある謎はほかにもある。それは、“超弦”理論が予測する次元の数だ。超弦理論は、素粒子は小さなエネルギーの弦であるとするものだが、この理論が成立するには、我々が実際に観測している4次元ではなく、11次元が必要となる。これもまた、宇宙が我々の住む宇宙だけでなく、ありとあらゆる宇宙が存在することを示しているのかもしれない。

◆生命と宇宙

 宇宙学者の目から見ると、我々の宇宙は不気味なほど生命に都合よく調整されている。電子を原子に結びつけている力の強さから、重力の相対的な弱さに至るまで、あらゆる物理定数が完璧に調和しなくては、惑星と太陽も、生化学も、そして生命そのものも存在しえない。4つ以上の次元をもった宇宙では、原子は互いに結びつくことができないと、グース氏は指摘する。

 もしも我々の宇宙が、ビッグバンによって誕生した唯一の宇宙なら、これらの生命に好都合な性質が存在することは、ほとんど奇跡のように思える。しかし、無数の宇宙が存在するマルチバースなら、生命に都合のよい宇宙が偶然わずかに誕生していても不思議はなく、我々はたまたまその1つに住んでいるだけなのかもしれない。
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「時間旅行」とは?・・・過去と未来が「今」と繋がっているとすると、過去を替えることが出来るならば、未来も替える事が可能と成るはずです。
地球にとっての、「良き未来」を創るために、「今」を一所懸命に生きて、良き未来を目標として生きてみたいですね。

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